新・リウマチ歳時記 Vol.58(2024.5.1)

2024年05月01日 新・リウマチ歳時記

大型連休には読書がおすすめ

今年は桜の開花が遅く、ずいぶんヤキモキしました。
世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし   在原業平
有名なこの歌を思い出された方も多かったのではないかと思います。待ちに待った桜は、期待通り見事に咲いてくれましたが、開花が遅かったためか、葉の出るのが早かったためか、けっこう早く葉桜になってしまって、ちょっと残念でした。そして5月になり、新緑の季節。街角には色とりどりのツツジが5月の薫風に揺れています。一年でいちばん過ごしやすい季節を迎えました。

今年のゴールデンウィークは、お休みの取り方次第では10連休も可能ですが、私たち医療業界はカレンダー通りの診療ですので、長期間の休暇をとることはもともと無理。おまけに国内の観光地は、円安の恩恵を受けたインバウンド観光客に加えて、これまた円安の影響で海外旅行を避ける日本人観光客が加わって、大混雑は必至。こんな時は自宅でゆっくりするのがいちばん、と腹をくくっています。

ただし、自宅でぼーっとテレビを観たりしていると、時間がムダに流れるような気がして、それはそれで気持ちが落ち着かない。何かしら充実感のあることをしたいと思う時は、読書が良いように思います。先日は、今年の本屋大賞の受賞作である宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」と2作目の「成瀬は信じた道をいく」を一気に読みました。作品の舞台が私の出身地で、主人公が私の高校の後輩という設定ですから、親近感たっぷりで、うんうんと共感しながら読みました。本屋大賞は、全国の書店の全国書店員が選ぶ文学賞ですから、「本を読むプロ」が推薦する本です。作家や評論家のような「本を書くプロ」が選ぶ芥川賞や直木賞とは違って、読者の目線で選考されていますので、気軽に楽しく読めます。本屋大賞に選ばれた本を今まで何冊か読みましたが、いつも読んだ後に充実感を味わいました。

本の好みは人それぞれですし、本との付き合い方も人それぞれ。私は新しい本をどんどん読み進めるのではなく、気に入った同じ本を何度も読みます。愛読書は、何回読んでも新しい発見があり、新たに納得することがあります。私は原稿を依頼されて書くことも多いのですが、本を読んでいる時は、何故かすらすらと文章が書ける。逆に本を読んでいない時は、なかなか筆が進まない。優れた作家の美しい文章を読んで感じるリズムのようなものが、自分が書く時に筆を進めてくれるような気がします。

世間では、若者の本離れとか出版不況とか言います。ネット情報が氾濫している現代では、読書よりも簡単に、効率的に情報に到達できるため、当然なのかもしれませんが、ネットにあふれている文章の多くは文章が稚拙で、リズム感がなく、読んで心地よさを味わえることはめったにありません。連休などで、まとまった時間がある時には、洗練された文章に接し、心を豊かにしてくれる読書を、是非お勧めしたいと思います。

2024年5月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・膠原病内科部長
山中 寿

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山中医師が東京女子医科大学にて2011.8~2019.4に連載した「センター便り」はこちら</