安全と安心は違う。再び。
毎年4月のリウマチ歳時記は、いつも桜を愛でる書き出しだったのですが、今年は寒の戻りのために桜の開花が遅れました。先日、桜の時期に合わせて来日した米国の友人たちが、残念そうに帰ってしまってからもまだ咲かない桜を、私は恨めしく思ったものです。そして、3月29日になってようやく東京に開花宣言が出ました。過去10年間で最も遅い開花となりました。私たちを焦らして、焦らして咲いた今年の桜ですが、例年以上に美しく咲いてくれるのか、それとも期待外れになるのか、楽しみではあります。
「安全安心」がひとつの四文字熟語になりつつありますが、安全と安心は違います。このことを思い知らされたのが、先日来の紅麹を含む健康食品の事故です。私は、今までに安全と安心は同じでないことを何度も書いてきましたが、再び書いてみたいと思います。安全は客観的な概念で科学が決める、安心は主観的な概念で心が決める。安全はデータを科学的(統計学的)に分析して決められる、安心は安全性に基づいて信頼感ができれば生まれる。だから安全安心は一つの言葉にしてはいけないと思います。
我々医師が処方する医薬品は、基礎研究や臨床研究を含む科学的なデータ解析により安全性が確認された場合に限って、厚生労働省が認可しています。副作用が100%ないという医薬品はありませんが、病気を治すために使う薬物ですので、十分な有効性があり、科学的に安全性が保障されれば認可されます。さらに市販後も、副作用が問題になっていないかを入念にモニタリングされます。したがって安全性は科学的に確保されており、安心するに足るものと言えます。それでも、やっぱり医薬品は嫌だとか、処方する医者が信用できないとかで、安心して服用できないという人もいるかもしれません。
それに対してサプリメントや健康食品などの多くは、何となく安心だからという理由で気軽に手を出す人が多いように思います。今回の紅麹入りの健康食品もそのような一例かもしれません。実は健康食品にもいろいろレベルがあり、特定保健用食品は、国が有効性、安全性を審査して許可したものですので、ある程度は安全性が確保されていますが、栄養機能食品、機能性表示食品などは国が認可したものではありませんので、安全かどうかはわからない。健康食品だから安心して服用できるという考えをお持ちの人がいれば、よく考えてほしいと思います。よく外来受診時に、「先生、こんな健康食品を服用していいですか?」と尋ねられることがあります。我々医師は、医薬品のことはわかりますが、健康食品についてはデータもないので、「わかりません」としか答えようがありません。
健康食品をすべて否定するつもりはありませんが、今回の紅麹事故は、健康食品についてよく考える必要があること、安全と安心の違いをよく考える必要があることを示してくれたと思います。繰り返して書きます。安全は客観的に科学が決める、安心は主観的に信頼感が決める。
安全とか安心とか難しい話を書いてしまいましたが、早くきれいな桜を見て、心をリセットしたいですね。
門に立て園児待つ母やおそ桜 正岡子規
今年の遅桜は、4月になって満開を迎えることになりますので、こんな感じになるでしょうね。
参考資料:厚生労働省HPより
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/hokenkinou/index.html
2024年4月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・膠原病内科部長
山中 寿