台風10号で思ったこと雑感
先週は台風10号に振り回された1週間でした。もともと夏の台風は、優勢な太平洋高気圧の影響で進路が定まらず、迷走することが多いのですが、台風10号は勢力が強いうえに、どこに行くかわからないという厄介な台風でした。進路さえわかれば対応の仕方があるけれど、進路が予測不能という状況。人間社会に例えれば、大きな権力を持った人が、何をするかわからない状況に似た恐ろしさを感じました。これから日本も米国も重要な選挙がありますが、国家権力を、予測可能な方法で正しく行使する人に、国家の命運を託したいものです。
台風だけでなく、大雨や洪水で災害が予想される場合に、気象庁から注意報や警報が出ますが、緊急安全確保だとか、高齢者等避難だとか、大雨特別警報だとか、種類が多すぎて混乱しますよね。専門家は、個々の状況に応じて細かく知らせようと思っているのでしょうが、我々は戸惑ってしまいます。実際、そういう意見が多いらしく、どの災害でも、「特別警報」「危険警報」「警報」「注意報」と一本化する内容で、今年度内にも見直しをするとの報道がありました。情報の発信は、発信する人の都合ではなく、受ける人のためのものであることを認識して、誰でも理解できる平易な言葉を使って伝えてほしいと思います。
特に、以前は、「避難指示」と「避難勧告」とがあり、このふたつは何が違うのかわからない人が多かったと思います。「指示」というと強制力があるので、避難しなければない状況ですが、「勧告」というと、避難したほうが良いですよ、という程度の意味です。幸い2021年に「避難勧告」の表現が廃止され、現在では、「避難指示」に一本化されましたので、避難指示が発令された場合は「全員避難する」ことが求められるようになり、ずいぶんすっきりしました。
私は、以前からこの「勧告」という上から目線の言葉が、どうも苦手です。実は、医学の領域では、各疾患に対して診療ガイドラインが作られており、その中に「勧告」とか「推奨」という言葉がたびたび出てきます。日本の診療ガイドラインを作る時に、欧米で作成されたガイドラインに記載されているRecommendationを参考にすることも多いのですが、Recommendationの一般的な日本語訳は「推奨」ですので、私が責任者として高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(2010年)、関節リウマチの治療ガイドライン(2014年)を作成した時も、Recommendationを「推奨」と訳しました。しかし、世の中には、recommendationを「推奨」よりも強めの「勧告」と訳す人がいます。内容を強調したいと思うのでしょうが、元々が行政用語ですし、上から目線ですし、しっくりきません。もちろん災害の警報と医学のガイドラインでは違うでしょうが、少なくとも医学医療の世界では、「勧告」という言葉は使わないようにしていきたいと思っています。
警報の出し方の話からだいぶ横道にそれました。難しい話になって申し訳ありません。
こほろぎのこゑの出深し野分あと 山口誓子
今年はとても暑い夏でした。日本国中を騒がせた台風10号ですが、何とか夏の暑さを運び去ってほしいものです。
2024年9月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・膠原病内科部長
山中 寿