新・リウマチ歳時記 Vol.55(2024.2.1)

2024年02月01日 新・リウマチ歳時記

ニュースの受け取り方雑感

今年の正月は大変な幕開けでした。先月この記事を書いた1月3日の時点では、能登半島地震の被害の全貌が伝わっておらず、その時は津波被害が少なくて幸いと思っていたのですが、後になって、津波が最大5.8mもあって、甚大な被害が出た大災害であることが明らかになりました。今から29年前の阪神・淡路大震災を思い出しました。あの日は火曜日の早朝で、出勤準備をしていた時でしたが、NHKの6時のニュースで第一報として、阪神地方で大きな地震があったこと、棚から落ちた置物でひとりのご老人がけがをされたと報道されていました。その程度かと思っていたら、後になって大災害が明らかになって驚きました。東日本大震災の場合も、甚大な被害が後になって次々と報道されたことは記憶に新しいと思います。つまり、被害が大きいほど、大きな事故や事件であるほど、正確な報道が遅れる傾向があるので、初期の報道だけで拙速に物事を判断してはいけないと身にしみて感じました。

1月で驚いたもう一つのことは、歌手の八代亜紀さんが「膠原病で亡くなった」という報道でした。私が診療している関節リウマチも、広い意味では膠原病のひとつですので、自分もそうなのかと心配された患者さんがたくさんおられました。ただし、この心配は杞憂です。「膠原病」は、1つの病気を指すのではなく、「心臓病」とか「感染症」というのと同じで、ように、多くの病気を総括して指す言葉です。感染症の中にといえばコロナやインフルエンザをはじめ、結核や梅毒などたくさんの病気がありますが、膠原病に分類される病気も、稀な疾患を含めると数十もあります。八代さんが罹られたのは「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」であったと報道されましたが、これは、数多い膠原病の中でも、治療が最も難しい大変な病気です。患者さんの数が少ない稀な疾患ではありますが、特殊な肺炎が急速に進行して死亡に至ることが多く、診断されてからの治療も大変だっただろうと思います。関節リウマチや他の膠原病が、ある日突然に「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」になることはありませんので、過度なご心配は無用です。しかしながら、もし八代さんが「膠原病で亡くなった」とのみ報道されていたら、膠原病で治療されている多くの患者さんがとても不安に思われたことだろうと思います。この意味で、八代さんのご家族や事務所の方が、早い時期から「抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎」という正確な病名を公表されたことは、とてもありがたいことでした。関節リウマチや他の膠原病で治療を受けている多くの人々が過度な不安を覚えなくて済み、本当によかったと思います。不幸にして難しい病気に罹られた八代さんには心よりお悔やみを申しあげ、治療に係った医療関係者のご苦労をねぎらい、正確な病名を公表された関係者のご判断に敬意を表したいと思います。

インターネットやSNSでいろいろな情報が伝わりやすくなって、社会が便利になったのは事実ですが、本当に大切な情報が伝わりにくかったり、不完全な報道が過大な心配の原因になったりすることがあります。ネット上の情報に適切に対応するネットリテラシーが重要といわれて久しいですが、多様な情報が増えるにつれて、受け手の判断が難しくなっています。私たちも、時代の波に呑み込まれないように、よく考えて行動したいものです。
2月はまだまだ寒い日が続きます。コロナもインフルエンザもまだまだ多いようですので、規則正しい生活を心がけ、体調管理を十分にしていただくようにお願い申し上げます。でも、1か月後には、もう桜の話題が出始める頃ですね。春の到来を心待ちにしています。

2024年2月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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山中医師が東京女子医科大学にて2011.8~2019.4に連載した「センター便り」はこちら</