年頭の大惨事に思うこと
あけましておめでとうございます。私は、年が明けてすぐ、除夜の鐘を聞きながら近くのお寺に初詣しました。既に多くの初詣の皆さんが列をなしていて、お参りできるまで1時間近くかかりました。いつも初詣する時に思います。老若男女と、いろんな世代の日本人が集まって、このように同じ行動をする場所が他にあるだろうかと。そして皆さん手を合わせ、ある人は自分の夢を願い、ある人は新しい1年に向けて自分の誓いをつぶやく。これが日本の文化だと思いました。私は、「世界平和」「家内安全」とつぶやきながら手を合わせ、その後に本堂でお屠蘇をいただいて帰りました。
元日は麗らかなお天気で、良い一年になるかなと思っていたのですが、元日の夕刻に能登半島地震のニュースが飛び込んできて、日本中が大きな悲しみに包まれてしまいました。お正月であったために、人員不足でできなかった救護活動もあったのではないかと、心を痛めました。寒空の中で被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。
さらに2日の夕刻には羽田空港の大惨事がありました。刻々とテレビに映されるリアルタイムの画像に緊張しました。窓越しに赤い火が見える窓が一つ一つ増えていくたびに、搭乗客はひとりも助からないのではないかと泣きそうな思いでした。搭乗客は全員が脱出できたとの報道があった時も半信半疑でしたが、ネットで脱出スライドから次々と人が降りている映像を見つけた時は、本当に安堵しました。怪我をされた方々にお見舞いと、お亡くなりになられた海上保安庁の方々にお悔やみを申し上げます。
新年早々起きたこの2つの大惨事。能登は天災ですが、羽田は人災というしかありません。何があったかはこれから明らかになるようですが、管制官と機長の連絡に何らかの問題があったのではないかと言われています。コミュニケーションロス。意思疎通が不十分で生じるトラブル。
私は以前から、空港と病院はよく似た構造をしていると思っています。ともに人々の身体を扱う場所であること、安全が重要命題であること、ミスが大きな事故につながる可能性が高いこと、多くの職種の複合体であり、それぞれが専門家集団であるために、職種間の連携がともすれば取りにくくなることなど、とても似ています。したがって、我々医療者も、今回の事故の教訓を真摯に受け止める必要があります。現在の医療界では、医療安全が大きな課題になっていて、全ての医療者は定期的に医療安全に関する講習を受けています。しかし、職種間の連携は、必要だと頭ではわかっていても、現実にはなかなか実現できない課題でもあります。確かに、どの世界でもいえることですが、講習で「知識」を得ることができても、「意識」を変えることはなかなかできない。しかし、逆の見方をすれば、「知識」を得るには時間がかかるが、「意識」は一瞬にして変えることができる。何よりも職種間のコミュニケーションロスをなくすこと、そのためには職種を超えた会話がとても大切です。今回の惨事を目の当たりにして、このことを肝に銘じ、病院運営に当たっていきたいと思います。
今年の初詣で、「世界平和」「家内安全」を祈りましたが、災害のない一年になりますようにと祈るべきであったと後悔しています。この場を借りて、無事で平和な一年になりますように、心より祈ります。
2024年1月4日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿