自分の脳と第二の脳
今年の11月は気まぐれな天候に翻弄された1か月でした。「もう11月なのに夏のように暑い日」があったかと思うと、「まだ11月なのに真冬並みの寒い日」もあり、結果として、今年は秋がなかったと実感しました。次第に夏と冬が長くなって、四季ではなく二季になりつつあるようで、何とも風情がない気がします。秋の清々しい青い空を堪能できなかったのは残念なことですが、夏服から冬服への衣替えが一度で済んだことは、ちょっと良かったかもしれませんね。
近頃、日常生活でわからないことがあると、すぐにネットで調べてしまいます。ネット空間には玉石混交ではあるものの、いろんな情報が溢れていて、うまく検索することができれば、ほとんどの疑問を解決することができます。本当に便利な世の中になったものですが、本当にこれでいいのだろうか、便利さに満足していていいのだろうかと時々思います。
昔は、いろんなことを知っている物知りさんは、皆から尊敬されました。しかし、ネットを探せば何でも答えが見つかる現在では、物知りさんの存在価値は低下してしまいました。パソコンやスマホを使いこなすことは、自分に「第二の脳」ができたようなものだと思います。「自分の脳」には、目や耳などの感覚器がついていて、身近な情報を脳に運んでくれますが、「第二の脳」は、ネットを介して世界中の無限の情報をもたらしてくれます。また、「第二の脳」は単純な記憶を肩代わりしてくれます。昔は誰でも20や30の電話番号を覚えていたと平成世代に話すとビックリされますが、今はスマホが全部覚えてくれています。そして「知識」だけでなく、様々な知恵も、「第二の脳」が教えてくれます。しかし、そのことは、暗記することにあくせくしていた「自分の脳」に、他のもっと大切なことに使う余裕ができたことを意味します。技術の進歩により余裕ができた「自分の脳」の部分に、新しく活躍する機会を与えていかなければ、「自分の脳」は次第に力が衰え、近い将来にAIにとってかわられる時代を迎えると思います。「第二の脳」を技術の進歩に適応して使いこなす、いわゆるネットリテラシーも大事ですが、それ以上に「自分の脳」をより有効に使いこなす、つまりブレインリテラシーとでも言うべきものが、これからは大切だと思います。そして「第二の脳」が肩代わりしてくれた「自分の脳」の空白を、有効に働かせてあげることを考えるべきと思います。具体的に言えば、今まで以上に積極的に見聞を広める努力をするとか、物事を深く考えて、広く思いを巡らせてみるとか、たまには哲学に触れてみるとか、芸術に親しんで心を震わせて感動してみるとか、情報を集めて公平な立場から批判してみるとか、今まで以上に脳を活性化する機会を作ると良いと思います。NHKのチコちゃんじゃないですが、まさに「ボーっと生きてんじゃねえよ!」ですね。
駆け足で訪れた冬の寒気のおかげで、山王メディカルセンター近くの神宮外苑前の銀杏並木もキレイに色づきました。明治神宮外苑の再開発をめぐり、樹木の伐採計画もあるようですので、受診後に少し足を延ばして、紅葉ならぬ黄葉を楽しんでいただくことをお勧めします。