マスクをかけた顔しか知らない人々が増えました
オミクロン株の感染増加が続いています。以前のデルタ株と比較すると、幸いなことにほとんどが軽症で、自宅にて静養すればよい程度ですが、それでも一定の割合で重症者がいますし、何しろ母数が多いので入院患者数も増えます。病床占有率が上がると、今週にも東京にも再び緊急事態宣言が出る可能性があり、社会全体の経済活動も低下します。つまり、オミクロン株に関しては、「軽症が多いので個人のリスクは高くないが、数が多いので社会全体のリスクは高い」という特徴があります。マスコミは、あんなこともある、こんなこともあると危機感を煽りますが、「罹っても軽症だから心配ないんだ」という気持ちがあると、個人のレベルでは危機感につながらないようです。私たち一人一人が、決して人ごとではないことを意識し、軽症であっても絶対に罹らないように、個人の行動に十分気を配る必要があります。国内でも最初にオミクロン株の感染が広がった沖縄では、実効再生産数が1.0を下回り、新規感染者は減っていています。東京もいずれ減少に転じると思いますが、一人一人の危機感が持てるかどうかで、その時期は変わります。あと、3回目のワクチン接種も推奨します。ファイザーでもモデルナでもどちらでも構いません。自治体から接種券が届けば、速やかに受けていただくよう、お願いします。
マスクをかけてしか人と会わない年月が長くなり、マスク越しの顔しか知らない人がずいぶん増えました。2020年からのこの2年間に初めて出会った人々のほとんどは、マスクをつけた顔しか知りません。昨年末の、やや警戒がゆるんだ時期に、会食でマスクを外して会った時、「誰だったっけ?」とわかりませんでした。皆さんも、マスクを外した時の顔が意外で、別人のような印象を受けたことがあったのではと思います。今までは、マスクに覆われない上半分から、顔の全体像を何となく想像していたのですが、顔の上半分と下半分はまったくの別物なんだ、と改めて気づきました。ある意味、新鮮でもありました。テレビのワイドショーに使われるフリップの「めくり」を思い出しました。ポイントになる部分が紙で覆われていて、司会者がさっとめくると視聴者が、「えっ」「そうなの?」と驚く。マスク顔しか知らない人がマスクを外すときも、同じような驚きや、新鮮さがあるように思います。
同じような現象は、この世の中にはたくさんあるのではないか、と考えてみました。マスクに覆われない目だけ見て顔の全体像を想像していたように、一部の情報だけを見て全体像をわかった気になるようなものって結構あるのではないでしょうか。ネット記事の見出しは、その一例でしょう。実際に内容を読んでみて、題名と全然違うと思うことが時々あります。ある意味では名刺や肩書もそうかもしれません。立派な肩書通りに素晴らしい人もいれば、そうでない人もいるように思います。本当に、このコロナというウイルスはいろんなことを気付かせてくれます。
まだまだコロナ禍は続きそうですので、マスクをかけた顔しか知らない人の数はますます増えると思いますが、コロナ禍が収束して、皆がマスクを外すような時代が来た時に、マスクなしの顔を見て新鮮と感じるのか、意外に思うのか、ちょっと怖い気もします。そのためか、マスクを外したくないという声もあるそうですが、さてどうなるでしょうか?
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿