コロナウイルスに対する薬剤いろいろ
あけましておめでとうございます。本年こそコロナ禍から抜け出して、社会活動が活発になる年になることを期待したいと思います。
人類が新型コロナウイルスに翻弄され始めて2年が過ぎました。新しい変異株の出現などで、まだまだ収束が見通せない状況が続いていますが、いろいろな治療薬が開発されて見通しが明るくなってきました。ただ、テレビなどで薬剤の名前は紹介されても、各々の違いについての解説はほとんどありませんので、予防薬なのか治療薬なのかについて誤解している人も多いようです。私なりにまとめてみましょう。
- 新型コロナウイルスに対するワクチン
コロナウイルスのたんぱく質を作るmRNAを人工的に合成したもので、これを注射することにより、1~2週間のうちにコロナウイルスに対する抗体が体内にできます。すると、コロナウイルスが体内に入っても、抗体がくっついて増殖させなくするので、発症を予防したり、重症化を防ぎます。あくまで感染前に使う予防薬であって、発症してから使う治療薬ではありません。 - デキサメサゾン(デカドロン)、トシリズマブ(アクテムラ)、バリシチニブ(オルミエント)
副腎皮質ステロイドであるデカドロン、抗IL-6受容体抗体アクテムラ、JAK阻害薬オルミエントは、コロナ肺炎が重症化して、肺の中でひどい炎症(サイトカインストーム)が起こった場合に、炎症を抑える目的で使われます。コロナウイルス自体を抑える働きはありません。また感染の予防効果もありません。アクテムラやオルミエントは関節リウマチの治療薬ですが、これらを使っている人がコロナに感染しないわけではありません。 - カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)、ソトロビマブ(ゼビュディ)
コロナウイルスのスパイク蛋白に対する抗体で、コロナに感染した軽症、中等症の患者に使われる注射薬です。ウイルスを無効化する治療薬ですが、濃厚接触者と無症状感染者に対する発症抑制効果もあるようです。人工的に作った抗体ですので、変異株によっては効果が落ちる可能性があり、実際、オミクロン株には有効性が低いとの情報もあります。 - レムデシビル(ベルクリー:注射薬)、モルヌピラビル(ラゲブリオ:飲み薬)
コロナウイルスの増殖を抑える薬剤で、レムデシビルは注射薬ですが、モルヌピラビルは飲み薬です。最近発売されたモルヌピラビルは、ちょうどインフルエンザに対するタミフルのような薬剤で、コロナ感染が発症したら5日間服用することにより、感染を早く終息させます。コロナウイルスの持つ増殖特性を抑えますので、変異株にも有効と思われます。ただし、予防効果はありません。今後、一般的な治療薬になる可能性があります。
以上のように、これらの薬剤は、各々が投与目的も効果も異なります。つまり、予防にはワクチン、発症すれば飲み薬のモルヌピラビルや点滴注射の抗体製剤、入院中に重症化すればデキサメサゾンやアクテムラというような使い分けになると思います。いろいろ薬が出てくると、予防的に服用したくなる人がいるかもしれませんが、これらの薬剤はあくまで治療薬であり、予防薬ではないことに注意をお願いします。飲み薬のモルヌピラビルを、コロナを予防したいからとか、ワクチンを受けたくないという理由で服用しても効果がありません。是非ご理解ください。
このリウマチ歳時記は、リウマチ性疾患に対するいろいろな話題を提供するために毎月書いていますが、ここしばらくはコロナの話ばかりになっています。コロナ以外の話が堂々とかける日々が来ることを切に願っています。
寒い冬です。コロナに罹患しないように、は当然ですが、風邪をひかないように。今、風邪をひくとコロナではないかと大騒ぎになります。十分にご注意をお願いします。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿