オミクロンって何ですか?
12月の声を聞いて、コロナに右往左往させられた今年がやっと終わりかと思ったら、今度はオミクロン株だとか。「オミクロン」って何だと思う人が多いと思いますが、ギリシャ文字のひとつで、アルファベットのO(オー)に当たります。コロナウイルスの「懸念される変異株」は、今までアルファ、ベータ、ガンマ、デルタと順に名前がつけられており、オミクロンはアルファから数えて15番目ですから、今までそれだけたくさんの「懸念される変異株」があったわけです。マスコミはオミクロン株の危機感を煽りますが、デルタ株以降の8個(2つは飛ばされたようです)の「懸念される変異株」は今のところ大きな問題になっていません。オミクロン株についても、情報が集まるまでは冷静に対応したいものです。
今回のコロナでは、「感染症の専門家」が大活躍されました。テレビを見ていても、同じような顔ぶれが連日登場していて、皆さん大忙しだったろうと思います。ただし、このような感染症の専門家でも、人によって少しずつ意見が異なることに違和感を持たれた人がいたのではないでしょうか。実は、感染症の専門家といっても、感染症の基礎研究をしている人(基礎研究者)や、感染症の予防を専門とする人(感染制御学)、感染症の治療を専門とする人(感染症治療学)、感染症の統計解析をする人(感染疫学)など様々な分野の専門家がいます。基礎の研究者でも、ウイルスの専門家であったり、免疫の専門家であったりして、医学の専門分野はかなり細かく分かれています。一般の市中病院では、それほど細かく分かれていませんが、大学や大学の附属病院ではこの細分化が顕著です。テレビなどのメディアに出演する専門家の多くは、大学病院に所属する教授ですので、自分たちの研究や臨床に基づいて発言します。したがって、少しずつニュアンスが異なるのです。
我々医師は、各々の専門家の立ち位置がわかるので、主張の違いがわかりますが、政策上の意思決定を行う政府の人々が、このような視座の違いを理解したうえで各々の専門家の意見を聞いたのかどうか、はなはだ疑問です。また多くのメディアは、その専門家の専門分野を考えることなく、十把一絡げに「感染症専門家」とか「感染症に詳しい」と紹介しています。しかし、ECMOを使ってコロナの重症患者を治療している医師に、今後コロナが増えるか減るかを聞いても、答えようがありません。レストランの腕利きシェフに、レストランの市場予測を訪ねているようなものです。聞かれた医師は、結果的にご自身の専門分野からの回答ではなく、単なる個人的見解を述べることになってしまって、なーんだ、その程度の回答か、と思われてしまうこともあったでしょう。今回のコロナ禍で、感染症専門の先生方は、実際の業務以外のところで苦労が多かっただろうと察します。感染症専門家といってもいろいろな立場の違いがあることを、私たちはもっと認識して判断する必要があると思います。
「視座が異なると、見えるものが変わる。」
人の意見を聞く時は、その人が置かれた立場をよく考える。これは何も医学に限った話ではありませんよね。
コロナ禍の師走です。師がつく職業はたくさんありますが、美容師や調理師が忙しくなり、医師や看護師が走らなくて良い社会になることを、願ってやみません。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿