安全は科学的に決まる、安心は心が決める
梅雨のど真ん中です。例年、梅雨明けはとても待ち遠しいのですが、今年は、ちょっと違います。東京五輪が始まる前に梅雨が明けると、人々がどっと繰り出して人流が増える、結果的に、コロナ感染の第5波につながります。梅雨が長引けば、「雨だから出かけるのをやめようか」とか「五輪は自宅からテレビで応援しよう」という人が増えるのではと思います。ただしお天気は我々の思い通りになりません。さてどうなりますか。
「東京五輪を安心安全に開催する」。いろんな政治家が、「安全安心」をひとつの言葉のように使っていますが、私はとっても違和感を覚えます。
安全は科学が決める、安心は心が決める。この地球上でリスクゼロはありえないので、安全かどうかは統計学を用いて客観的に決まります。一方で、安心かどうかは、個人の心の中で主観的に決めるものです。したがって、安全と安心は全く別物。対になる言葉ではあるけれど、同列に扱うべきではありません。
「安全だけれど安心できない」事は、枚挙にいとまがありません。しかし、「安全でないのに安心できる」事はほとんどありません。有観客の五輪開催に関しては、優秀な専門家が口をそろえて「安全でない」と言っているのに、誰が「安心できる」というのでしょうか。不思議でたまりません。
医療の現場でも「安全」と「安心」は大きなテーマです。すべての医療関係者は、「安全」な医療を行うために、定期的に医療安全委員会を開催し、また毎年研修を受けています。情報共有、院内感染防止、転倒防止。薬剤安全性などなど、すべて「安全」な医療を行うための手段であり、受診者に「安心」していただくことが目的です。つまり、サービスを行う人が提供できるのは「安全」のみ、「安心」はサービスを受ける人が心の中で判断するものなのです。
梅雨が長引けば、外出が減り、感染防止に役立つかもしれないと書きました。実は、私はかなりの「晴れ男」。出かける時はほとんど晴れます。ですから、東京五輪の期間中に私が外出しなければ、雨の確率が上がるかもしれません。コロナ禍の中の五輪開催に、少しばかり抵抗してみようと思っています。
ワクチンとお薬について、改めて書いておきます。先月号と同じ記載です。
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原則的に誰でもワクチンは打てます。リウマチなどの自己免疫疾患をお持ちの患者さんも打てます。過去に予防接種で熱が出たとか、腕が腫れた人も受けられます。花粉症も、蕁麻疹も卵アレルギーも問題ありません。降圧剤やコレステロールを下げる薬など一般的な薬剤は、通常通り服用しながらワクチン接種を受けられます。
ただし、免疫を抑える薬剤を服用している場合は注意が必要です。免疫の働きを抑えていると、ワクチンを打っても体内に十分量の抗体ができず、ワクチンの効果が弱まる可能性があります。
- 副腎皮質ステロイドや一般の抗リウマチ薬は、休薬の必要はありません。
- メトトレキサート製剤(リウマトレックス、メトレートなど)は、ワクチン注射後の1週間は休薬し、次の週から通常に服用してください。
- JAK阻害薬(ゼルヤンツ、オルミエントなど)は、ワクチン注射後1週間は休薬し、次の週から通常に服用してください。
- 他の免疫抑制薬(プログラフなど)や生物学的製剤(エンブレル、アクテムラなど)は、通常通りで良いとされてはいますが、念のためワクチンを打つ前日、当日、翌日の3日間は使わないほうが良いでしょう。
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山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿