新・リウマチ歳時記 Vol.23(2021.6.1)

2021年06月01日 新・リウマチ歳時記

ワクチン接種でコロナ禍の出口が見えるか?

今年は梅雨の訪れが早く、九州から東海にかけての梅雨入りは記録的な早さでした。関東甲信はまだ梅雨入り宣言は出ていませんが、雨をいっぱい貯めたように黒くて厚い雲を見ると、間もなくだろうと思います。

紆余曲折がありましたが、何とかコロナワクチン接種が始まりました。外来を受診される患者さんにも、もう打ったという人や、大変な思いをして予約を取ったという人が増えてきました。
ワクチンとお薬について、何度も書いてきましたが、改めて書いておきます。再確認をお願いします。

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原則的に誰でもワクチンは打てます。リウマチなどの自己免疫疾患をお持ちの患者さんも打てます。過去に予防接種で熱が出たとか、腕が腫れた人も受けられます。花粉症も、蕁麻疹も卵アレルギーも問題ありません。降圧剤やコレステロールを下げる薬など一般的な薬剤は、通常通り服用しながらワクチン接種を受けられます。
ただし、免疫を抑える薬剤を服用している場合は注意が必要です。免疫の働きを抑えていると、ワクチンを打っても体内に十分量の抗体ができず、ワクチンの効果が弱まる可能性があります。

  • 副腎皮質ステロイドや一般の抗リウマチ薬は、休薬の必要はありません。
  • メトトレキサート製剤(リウマトレックス、メトレートなど)は、ワクチン注射後の1週間は休薬し、次の週から通常に服用してください。
  • JAK阻害薬(ゼルヤンツ、オルミエントなど)は、ワクチン注射後1週間は休薬し、次の週から通常に服用してください。
  • 他の免疫抑制薬(プログラフなど)や生物学的製剤(エンブレル、アクテムラなど)は、通常通りで良いとされてはいますが、念のためワクチンを打つ前日、当日、翌日の3日間は使わないほうが良いでしょう。具体的な薬剤については、主治医に確認し、不安があればご相談されることをお勧めします。

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ワクチン接種が進むと、コロナ禍の長いトンネルの出口が、遠くに見えてくるはずです。しかし、トンネルを抜けた先にどのような社会が開けているのか、期待と不安があります。経済が回復し、以前のような活気が戻るかもしれないと思う反面、村上春樹の「1Q84」に描かれているような、ふと気がつくと違う歴史が流れている世界に入ってしまうような予感があります。
以前は、人と人が会って話をし、談笑したり、配慮したり、協調したりしながら物事が決まり、社会が動いていました。しかし、今は、会うことも話すこともなく、メールやSNSで重要なことが決まる、あるいはWeb会議で納得してしまう。裏を返せば、以前ほど相手に配慮せずに物事が進む社会になりつつあります。これはある意味ではドライで合理的かもしれません。しかし、人と人との間の潤滑油がなくなって、ギシギシ音がする世界になっているように思います。物事の「機微」や「阿吽の呼吸」を大切にする日本的な考え方が失われるのではという危機感もあります。
「流れに掉さすと流される」と言われます。便利だから、皆がやっているからと流れに乗ってしまうと、自分が望まない世界に流されてしまう。流されないためには、今、何をするべきなのか。まずは、普段より少しだけ他人に配慮することから始めればどうでしょうか。いつもより少し他人に優しくする、いつもより少し他人の話を長く聞く、いつもより少し他人の行動を温かくみる。皆がこのように振舞えば、おかしな世界に迷い込むことが防げるのではないかと思います。

「どんなものごとにも明るい側面がある。どんなに暗くて厚い雲も、その裏側は銀色に輝いてる」

村上春樹「騎士団長殺し」

梅雨入り真近ですが、梅雨雲の向こう側には必ず眩しい太陽が輝いていることを想いながら、空を眺めたいと思います。
皆さまもくれぐれも健康にご注意ください。

山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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