コロナ禍からの出口戦略
謹賀新年。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
日本海側は大雪でしたが、東京は快晴のお正月でした。澄み切った青空をバックに陽光の暖かさを感じるはずなのに、新型コロナの感染は一向に収まる気配もなく、社会全体を暗い雲で覆っています。何よりもパンデミックがいつまで続くのか見通しがつかないことが、不安感を強めています。
新型コロナウイルス禍をどうすれば収束させられるのか、いわゆる出口戦略の選択肢はいくつかあります。
- 感染のリンクを断つこと。ウイルスはヒトなどの宿主の細胞内でしか増殖しませんし、ほとんどの人は感染しても免疫の力で撃退できますので、他人に感染させなければウイルスの感染は収束します。今、我々ができることはこれです。
- ウイルスが変異して弱毒化すること。ウイルスは頻回に小さな変異を繰り返しています。英国で発見された変異は、多くの変異のごく一部でしかありません。変異するとウイルスは強毒化したり弱毒化したりしますが、多くはいずれ弱毒化します。新型コロナもいずれ単なる風邪のウイルスになるという予想もあります。そうなれば感染しても怖くない状況になりますが、そのような変異が起こるかどうかは、あくまでウイルス次第。人類が手を出すことは不可能です。
- 集団免疫ができること。多くの人が感染して、体内に抗体ができると罹患しなくなります。50~60%の人が抗体を持つと、ウイルスの拡散は収束すると言われます。ただ、新型コロナウイルスに罹患した日本人は1月1日の時点で約24万人ですから、総人口の0.2%にすぎませんし、今回の新型コロナウイルスは感染しても、抗体ができにくいとも言われますので、何もしないで集団免疫が形成されることは無理でしょう。したがってワクチン接種が必要になります。ワクチン接種により人為的に体内で抗体ができる感染がブロックできます。多くの人がワクチンを受ければ、集団免疫が成立し、感染の広がりは収束します。
幸いなことに生命科学の著しい進歩により、新型コロナウイルスが発見されてから1年もたたないうちにワクチンが完成し、接種が始まりました。これは、今までのワクチンの歴史から見ると奇跡のような出来事です。世界中から天然痘が消滅したのは、天然痘ワクチン(種痘)により人類全体として集団免疫が形成されたからです。多くの人がワクチンを受ければ、集団免疫を形成できるのです。
今回、開発されたワクチンはmRNAワクチンで今までとは全く異なります。今までのワクチンは、弱毒化や不活化した病原体の一部を注射して、体内で抗体を作らせるものでした。つまり、我々の体の成分と異なるたんぱく質を注射により体内に入れるので、人によってはアレルギー反応が生じました。例えばインフルエンザワクチンでは50万~100万人に一人ぐらい重篤な副作用が生じます。一方、mRNAワクチンは、たんぱく質を作るシグナルであるmRNAという核酸成分を注射して、体内でウイルスの一部と同じたんぱく質を作り、それに対して抗体を作らせるものです。外来のたんぱく質を使わないので、安全性は格段に高いと思われます。英国や米国で生じたワクチンによるアナフィラキシーは、ワクチンの添加物が原因と言われていて、ワクチン自体によるものではない模様です。
ワクチン全般に対して拒否感の強い人もおられますが、私はワクチンを受けられるようになれば必ず受けます。それは私の体を守るだけでなく、私の家族や周囲の人の体を守ることでもありますし、そして集団免疫が形成されることに寄与します。皆さんも、ワクチンを受けられる機会があれば、是非、前向きに考えてください。
新年早々、重い話になってしまいました。このリウマチ歳時記に、新型コロナの解説記事を書かなくても済むような状況になりますことを、心より祈っています。
寒い日々が続きます。皆様もくれぐれもご自愛ください。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿