新・リウマチ歳時記 Vol.17(2020.12.1)

2020年12月01日 新・リウマチ歳時記

今回の新型コロナにおける「不幸中の幸い」

今年も師走を迎え、都内の木々も美しく色づいていますが、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、いつになったら元の生活に戻れるのか、不安な日々が続きます。
今回、ちょっと見方を変えて、今回のコロナウイルスで「不幸中の幸いだった」、「ラッキーだった」ことを挙げてみたいと思います。ちょっとは気分が明るくなるかもしれません。

不幸中の幸い1:新型コロナウイルスの毒性が比較的弱かったこと。
ウイルスの中には毒性の強いものがあって、例えばエボラ出血熱は致死率50%、罹ったら半数が死に至ります。エボラのパンデミックがあれば、人類はひとたまりもないでしょう。ところが、新型コロナウイルスの現時点までの致死率は日本で1.5%、全世界でも2.4%であり、数多いウイルス感染症の中では、それほど毒性の強いウイルスではありません。

不幸中の幸い2:新型コロナウイルスの感染力が比較的弱かったこと。
空気感染するウイルスは感染力が強く、例えば麻疹(はしか)は一人が感染すると周囲の10~12人に感染させ、あっという間に広がります。幸いにも新型コロナウイルスは主として飛沫感染であるため、実効再生産数1.0程度、つまり1人の感染者が1人に感染させる程度ですから、三密を避ける程度の対策で何とか蔓延を防げるはずです。

不幸中の幸い3:アルコールで消毒できること
全てのウイルスがアルコールで消毒できるわけではありません。例えばノロウイルスはアルコールに抵抗性ですから、消毒には次亜塩素酸を使います。幸いなことに新型コロナウイルスはアルコールで消毒が可能ですから、手元にあるアルコール消毒液が有効であり、消毒作業はずっと楽なのです。

不幸中の幸い4:科学技術が進歩していたこと。
医学生物学に対する技術革新のおかげで、幸いにも新型コロナウイルスの遺伝子配列はわずか2か月で解析され、直ちにPCRを使う診断法が開発されました。おかげで感染防止対策ができるようになり、ワクチン開発も進んでいます。現在、有効性の高いmRNAワクチンが開発されており、わずか9か月で市販されようとしています。人類の歴史上で前例のないことであり、医学生物学の進歩には目を見張ります。

不幸中の幸い5:ネット環境が整備されていたこと。
ウイルス感染の蔓延を防ぐポイントは、人と人の接触を減らすことですが、社会生活上で様々な支障が出ます。幸いにも、現在ではメールやインターネット、Zoomなどのネットを用いた対話が発達していて、在宅勤務やリモート営業などのように対面しなくても情報交換が可能です。もし今、このようなネット社会のインフラがなかったら、どんな世界になっていたのか、想像するだけでも恐ろしい思いがします。

テレビのワイドショーでは、極端な事例や意見のみを取り上げて、テレビにかじりついている視聴者を怖がらせていますが、大切なことは些末な話題の提供ではなく、正しい知識の提供です。今回の新型コロナ感染症に関しても、広い目で見た場合に、何がリスクで、何が安全なのかを見極めることが大切です。お読みいただいて、少しでも気が楽になっていただければ幸甚です。

コロナの話題で明け暮れた1年も師走を迎えました。今年は忘年会を開くことは無理でしょうが、来年の12月には、楽しい忘年会が開けるような状況であってほしいと、心より思います。

山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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