ゴキゲンの作り方
5月のように暖かい日があったかと思うと、急に真冬に逆戻り。今年は寒暖の差が大きすぎますが、それでも3月。もう3週間もすると桜便りを耳にする季節を迎えます。日の出の時刻も早くなりました。私は相変わらず早寝早起きの生活をしていますが、少し前までは目が覚めた時の外は真っ暗だったのに、今では空が明るくなる気配があり、それだけでも気分が前向きになります。朝の時間は楽しいです。
「ご機嫌は自分でつくるもの」。毎朝、出勤支度をしながら聞いているラジオでナビゲーターの別所哲也さんが口癖のように言ってくれる言葉です。本当にそうだと思いますし、いつもこの言葉に励まされています。ゴキゲンな人に会うと楽しくなりますし、ゴキゲンでない人に会うと、気分が沈みます。つまり、自分がゴキゲンだとまわりの人を明るくできるわけで、何とかゴキゲンな自分でいたいと、いつも思っています。病院は、病気のためにゴキゲンになれない患者さんが来る場所です。我々医療者は、そんな人々を何とかゴキゲンにしたいと思っています。それには、まず私自分がゴキゲンであること、次に自分の知識と経験で患者さんの病状を改善すること、そうして、患者さんに少しでもゴキゲンになってもらいたいと思います。
「匙(さじ)加減」という言葉があります。患者さんの病状に合わせて粉末の薬を匙ですくって投与量を決めていた時代の言葉ですが、今ではほとんどの薬剤は錠剤やカプセルですので、匙で量を調整することはなくなりました。また、どの薬剤も厚生労働省が承認した量でしか処方できませんので、「匙加減」は、死語になりかけています。しかし、今でも薬剤によっては、処方する錠数を微妙に調整することで患者さんの症状を改善させたり、副作用を軽減させたりすることがあります。そのような薬の処方では、微妙な「匙加減」が患者さんのゴキゲンを生むことがあり、専門医の腕の見せ所でもあります。
どの薬剤でも、投与量が多すぎると、効果はあるが副作用が出ます。少なすぎると、副作用は出ませんが効果もありません。効果があるが副作用が出ない量が適正な投与量です。多くの薬剤では適正量にあまり個人差はありませんが、関節リウマチの標準的な治療薬であるメトトレキサート(MTX)の場合は、ずいぶん個人差があります。週3カプセルで十分効く人もいれば、週8カプセルでも効かない人もいます。逆に週3カプセルでも副作用が出る人もいれば、週8カプセルでも何の副作用もない人もいます。そのため、医師は、患者さんの症状、関節の腫れ具合、血液検査の数値などで、投与量を微調整します。つまり「匙加減」が必要な薬です。副腎皮質ステロイド剤(プレドニンなど)でも同様で、個人差や病気の状態により「匙加減」が必要になります。微妙な「匙加減」により副作用なく、症状も軽減すると、患者さんのゴキゲンにつながる、患者さんがゴキゲンになれば、私たちもゴキゲンになれる、ゴキゲンの好循環ですね。ゴキゲンになれる薬剤の量について、ぜひ医師とご相談いただくと良いと思います。
寒い日が続きますが、春はすぐそこまで来ています。
山里は 万歳遅し 梅の花 (芭蕉)
今は梅が盛りですが、ゴキゲンになれる桜の季節を待ち望んでいます。
2024年3月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿