新・リウマチ歳時記 Vol.63(2024.10.1)

2024年10月01日 新・リウマチ歳時記

「あなたの主治医」 「私の主治医」

長い夏がやっと終わりを告げ、やっと清々しい季節を迎えました。気象庁によると、今年の夏(6~8月)の全国の平均気温は、これまで最高だった昨年と並び、統計のある1898年以降で最も暑かったとのことです。地球温暖化の傾向を考えると、来年も再来年も、残念ながら暑い夏を覚悟する必要がありそうで、春秋の快適な季節がますます貴重になります。私たちも、何とかこの短い秋を満喫したいものです。

「おはようございます。機長の**です」、飛行機に乗った時に流れる、耳慣れたアナウンスです。ところが、引き続き流れる英語のアナウンスは、 ‘Good morning. This is your captain ** speaking’。違いが分かりますでしょうか?英語では、単なる「機長」ではなく、「あなたの機長」と言うことが一般的なのですが、日本語では誰の、とか、誰に、とかの人称代名詞は省略してしまいます。「あなたの機長」と言えば、機長と乗客との立場が明確になり、乗客の命を預かる機長の責任感を感じることができますが、単なる機長では、機長と自分との関係性が不明確になってしまう。日本語の特性なのですが、このことが原因で、責任の所在が曖昧になり、場合によっては責任逃れにもつながるのではないかと、私は思います。

今年は、重要な選挙が重なる年です。既に東京都知事選挙がありましたし、新しい総理大臣が決まりました。来月の11月には米国の大統領選挙もあります。もし、日本でも総理大臣や知事が演説する時、冒頭に、「私はあなた方の総理大臣である****です」とか「私はあなた方の知事の****です」と自己紹介したらどうでしょうか。演説している総理大臣や知事の意識も変わると思いますし、演説を聞いている聴衆の期待感も高まると思います。物議をかもした前・兵庫県知事も、「私は兵庫県民の皆さんの知事である****です」と自己紹介していたら、もっと自覚のある行動をしたのではないかと思います。逆に、私たちも、私たちの税金が使われている職業の人々に対して、「私たちの警察」とか「私たちの自衛隊」とか「私たちの税務署」というように役職の前に人称代名詞を付けて考えれば、ちょっと見方が変わるのではないでしょうか。

同じことを、医療機関を受診する患者さんと医師の関係において、言えるかどうか考えてみました。医師が患者さんに「あなたの主治医」と言えるかどうか、患者さんが医師に「私の主治医」と言えるかどうか、ですね。例えば、英国の保険システムではかかりつけ医が決められていて、その医師の紹介がないと、専門医の受診もできません。かかりつけ医=「あなたの主治医」「私の主治医」と言える制度です。一方、日本の保険制度では、患者さんは、どこの医療機関でも自由に受診できますので、かかりつけ医、主治医の担当する範囲が、患者さんひとりひとりにより異なります。疾患別に複数の主治医がいる患者さんもおられれば、かかりつけ医がいない方もおられます。結果的に、「あなたの主治医」「私の主治医」と言えるかどうかが、曖昧になっています。日本医師会は、自宅の近くに何でも相談できる、かかりつけ医がおられて、かかりつけ医では診療できない疾患がある場合には、専門医にその疾患を治療していただく形式を勧めていますが、患者さんが受診を必要とする病気の種類やその土地の医療事情などにより、いろんなケースがあります。私は、リウマチ性疾患の専門医として診療していますので、私の外来を受診される患者さんは「リウマチ性疾患に関しての主治医」とお考えの人が多いのですが、「かかりつけ医としての主治医」と考えて受診されている方もおられ、さまざまです。ただ、私も一人の医師として、受診していただいた患者さんを「私はあなたの主治医」と考えて接したいと思っていますし、患者さんからは「私の主治医」と思っていただけるように努めたいと思っています。言うは易し、行うは難し。簡単なことではありませんが、私なりに精進したいと思っています。

短い秋をどんな方法で満喫しようか、ちょっと楽しい気分で迎える10月です。

2024年10月1日
医療法人財団順和会 山王メディカルセンター院長 リウマチ・膠原病内科部長
山中 寿

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山中医師が東京女子医科大学にて2011.8~2019.4に連載した「センター便り」はこちら</