お酒に強いか弱いかの体質について
今年の桜のシーズンは全国的に早く訪れましたが、満開の見頃のころに東京では雨続きで、青空に映える満開の桜が見られずに口惜しい思いをしました。しかし、コロナが下火になって、さまざまな制限も緩和されていますし、ワールドベースボールクラシックで日本のドリームチームが優勝したことなどもあって、昨年よりは開放的な気分で桜を眺められたのは嬉しいことでした。桜は毎年同じように咲くけれど、見る人の心に映る桜花は、毎年違って見える。悠久の自然は変わらないけれど、人間界は年々うつろう。
年年歳歳花相似たり 歳歳年年人同じからず
毎年同じことを書いているとお叱りを受けそうですが、やはり今年もこの話題になってしまいました。
花見酒に関係して、ひさしぶりにアルコールの話を書いてみたいと思います。
アルコール飲料は嗜好品のひとつです。同じ嗜好品のたばこは、医師の立場から見て良いことは一つもなく、早く禁煙社会になるべきだと強く思いますが、適量の飲酒は社会の潤滑油でもあります。酒には「お酒」と「お」をつけますが、「おたばこ」とは一般には言いませんよね。
ただし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。お酒の飲みすぎで健康を害する人は後を絶ちません。一定量以上の飲酒を続けると、肝障害、慢性膵炎、高血圧、高尿酸血症や痛風、睡眠障害などを起こしますし、一部のがんとの関係もあります。またアルコール依存症からアルコール中毒になると、人生を破滅に追い込んでしまいます。
お酒に強いか弱いかは、かなりの部分が遺伝子で決まります。アルコールを分解するALDHと言う酵素には、アルコールの分解が早くてお酒に強いタイプと、分解が遅いのでお酒に弱いタイプがあります。皆さんはこの酵素の遺伝子を2本持っていて、お酒に強い遺伝子と弱い遺伝子の組み合わせでお酒に強いか弱いかの体質が決まります。強い遺伝子を2本持っている人【強い/強い】は、アルコールの分解が早いので、お酒を飲んでもひどく酔いませんが、弱い遺伝子を2本持っている人【弱い/弱い】は、お酒が飲めない、いわゆる下戸です。強い遺伝子と弱い遺伝子を持っている人【強い/弱い】は、元々あまり強くないが、飲み続けるとある程度は飲めるようになります。この2本の遺伝子、1本は父親から、1本は母親から受け継ぐので、両親ともに【強い/強い】だと、子供は全員が【強い/強い】になりますし、両親ともに【弱い/弱い】だと、子供は全員が【弱い/弱い】になります。両親のどちらか、あるいは両方が【強い/弱い】だと、組み合わせで体質が決まります。遺伝子を検査して調べなくても、だいたいは類推できるはずです。
【弱い/弱い】遺伝子の人は、ほとんどお酒は飲めませんので、アルコールで体を害することがありません。【強い/弱い】遺伝子の人は、無理して飲むと肝障害が起きます。γ-GTPが上がるようだと、飲酒を制限しないといけません。問題は、【強い/強い】遺伝子を持つ人で、お酒をたくさん飲んでも、分解が早いので肝障害が起こりにくいのです。γ-GTPが上がらないから良いんだ、と油断しているとアルコール依存症になる危険があります。さらに、【強い/強い】遺伝子を持つ人は痛風になりやすいことを、我々が発見して1994年に論文発表しましたが、最近の遺伝子研究でも実証されています。ではどうすればよいか。お勧めは休肝日です。例えば水曜日は休肝日と決めておく、それでもその日に飲んでしまうようであれば、アルコール依存症である可能性があります。その場合は、禁酒か飲酒量をうんと減らすようにするべきでしょう。
お酒は紀元前4000年前から飲まれてきたそうですが、人それぞれ体質がありますので、健康を維持するためには体質にあった呑み方をすることがお勧めです。
私は比較的、飲酒には寛容な立場ですが、自戒も込めて、アルコールとの付き合い方を紹介しました。
ご参考になれば幸甚です。