花粉症とリウマチと
3月になり、急に春めいてきました。寒い冬でしたが、幸いなことに東京ではほとんど雪も降らず、交通渋滞も起こりませんでした。このまま気温が上がっていけば、今月末には桜の開花を迎えることになります。
さざなみは神の微笑か水温(ぬる)む 楠本憲吉
コロナの新規感染者数も急激に減ってきています。ゼロになることはないと思いますが、社会生活における制限も次第に緩和されており、マスクも自己判断になるとのことで、コロナ禍としては一段落の感があります。春の到来とともに社会には開放感が高まってきました。
ただし、この時期に困ったことのひとつがスギ花粉症です。気温の上昇と共にスギ花粉の飛散量が増え、スギ花粉に対するアレルギーである花粉症で悩む人がたくさんおられます。**にアレルギーがあるというと、社会一般的には「**が苦手である」とか「**とはお付き合いしたくない」のように使われることがありますが、本来の医学的な言葉としては、特定の物質に対する「免疫の過剰反応」です。例えば、「女子高の教室に有名なイケメン俳優が突然に入ってきた時、教室全体がワーワーキャーキャーとパニックになる」状況に似ています。スギ花粉に感作された人では、スギ花粉が侵入すると免疫機構が過剰に反応して、アレルギーを起こす物質を多量に放出してしまうのです。したがって、原因物質を可能な限り排除することがまず大切になるため、スギ花粉が目や鼻に入らないように、マスクなどで侵入を阻止することが必要です。3月からコロナに対してはマスク解除が可能になっても、花粉症がある人はマスク解除しないほうが良いでしょう。それでも効果がなければ、抗アレルギー薬を服用することをお勧めします。いろいろと開発されていますので、おかかりの主治医に相談されると良いと思います。
スギ花粉症に関して興味深い研究をひとつ。私が東京女子医大教授だった時、関節リウマチの患者さんたちに協力していただいた大規模な患者調査IORRAで分かったことですが、リウマチが悪い時は花粉症が軽くなり、リウマチが改善すると花粉症がひどくなるのです。実際に、「リウマチが悪かった頃には花粉症は忘れていたけど、リウマチを治療して良くなったら、今度は花粉症で悩むようになった」という声をよく聞きます。これはT細胞というリンパ球のバランスによる現象なのですが、「リウマチ患者さんで花粉症が再発してきたら、関節リウマチが良くなった証」とも言えるでしょう。もちろんどちらもいやですが、関節が変形してしまう関節リウマチよりは、季節が過ぎれば軽快するし、マスクで予防もできる花粉症のほうがまし、と言えるのではないかと思います。
コロナが一段落の様相で、開放感が次第に高まりつつありますが、まだまだ注意は必要な状況には変わりありません。花粉症対策も含めて、各自の健康管理には十分にご配慮ください。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿