「横着(おうちゃく)しない」ことの大切さ
10月になり、1年で最も過ごしやすい季節が到来しました。9月のシルバーウィークは、連休のたびに図ったように台風がやってきました。せっかくのお休みが・・・と思われた方も多いと思いますが、台風が去った後は、大陸から涼しい乾いた風が流れ込み、台風一過の好天気を楽しむことができました。
コロナの新規感染者も減ってきたのに合わせて隔離期間が短縮され、行動制限も緩和されていますが、これは経済を回すための政策である意味合いが強いもので、医学的にみて安全な状態になったわけではありません。社会的には「ウィズ・コロナ」であっても、医療関係者にとっては「ノー・コロナ」を目指す方針は変わっていませんので、皆様も医療機関を受診される際は、感染対策に十分ご注意いただくようお願いいたします。
「横着(おうちゃく)」という言葉があります。最近はあまり使われなくなった言葉かもしれませんが、「ひと手間を惜しんで無理にやってしまう」「結果をよく考えずに行動する」「図々しくふるまう」などの意味で使われます。要するに、「まあ、いっか」と甘く考えてやってしまうことですね。横着な行動は、周囲の人々との信頼関係を壊しますが、身体的なリスクにもなります。自転車を運転していて、大丈夫だろうと赤信号を突っ切るなどは、まさに典型ですが、日常のちょっとした瞬間にもこの「横着」が潜んでいます。お年寄りが、思いがけず転んで骨折した場合に、「横着な」行動が原因であることがよくあります。例えば、物を取ろうとした時に、一歩踏み出して姿勢を安定させて取ればいいものを、ひと手間を惜しんで不安定な姿勢のまま手を伸ばすからバランスを崩して転倒するとか、いつも杖を持ち歩いているのに、ちょっとの間だから大丈夫だろうと杖なしで歩いて転んだとか、歩道の信号が点滅しているのに、急いで渡ろうとして足がもつれて倒れたりとか。大丈夫だろうと甘く考えて、大胆に行動してしまうことが、大きな事故につながる可能性を含んでいます。広い意味で言うと危機管理でしょうか。身体に対する危機管理として、「横着しない」ことが、安全で健康的な日常生活を送るための、一つのキーワードになると思います。
よく考えてみると、ニュースで批判されている社会的な事件も、これくらいだったら大丈夫だろう、まあいっか、と甘く考えた「横着な行動」の結果であることが、とっても多いように思います。さまざまな確認ミスしかり、交通事故しかり、汚職しかり。SNSの炎上もそうかもしれません。「横着」の反対語は、誠実とか几帳面、慎重などだそうです。私は子供のころから、両親に「横着したらあかん」と言って育てられました。自分の健康のためにも、悔いのない人生のためにも、「横着しない」で、人に対しても、自分に対しても、誠実に接していきたいと思いました。
10月は清々しい気候が続くこと良い季節ではありますが、季節の変わり目でもあります。くれぐれもご自愛ください。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿
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