新・リウマチ歳時記 Vol.35(2022.6.1)

2022年06月01日 新・リウマチ歳時記

オンライン会議の功罪

寒さが去り、本格的な暑さはまだ来ない、という時期になりました。これから梅雨入りまでの間は、しばらく過ごしやすい天候が続きます。コロナもまだまだ油断はできないものの、ウイルスが変異を繰り返した結果、当初のように肺炎を起こして重症化するリスクは明らかに減りました。その証拠に、感染症の専門医師がテレビの画面に映る機会も減りました。テレビでは、いつマスクなしの生活に戻れるかが盛んに議論されています。繁華街や行楽地の人出は明らかに増えていて、リベンジ消費という言葉に乗って、経済が活性化する期待が生じています。

コロナ禍を機に社会が大きく変わったたことの一例が、Zoomなどのシステムを用いたオンライン会議です。オンライン会議のおかげで、自宅に居ながらにして、全国の人々、全世界の人々と話ができるわけで、パンデミック真最中でも在宅勤務が可能になりました。会社勤めの人々が、毎日、満員電車で通勤したり、たった15分の面会のために丸1日かけて遠くまで出張する必要がなくなりました。私も、東京女子医大の教授時代は、全国各地で開催される会議や講演会のために、ほぼ毎週のように出張していましたが、オンラインを用いて講演会も自由に行える時代になり、ほとんど出張がなくなりました。医学の進歩に必要不可欠な学会も、以前は、時間と交通費をかけて会場に行かないと発表も聴講もできなかったのが、今では自宅や病院から発表も聴講もできるようになりました。地方在住で学会会場まで時間がかかる人々、子育てや介護のために時間が取れない人々たちには大きな朗報ですし、外来診療も「学会出張のために休診」というのが減って、患者さんにご迷惑をかける機会も減ったと思います。

いいことづくめのような気もしますが、当然ながら不都合もあります。多人数で行うオンラインで語られるのは、あくまで表向きの話ばかり。裏話はできません。以前は、会社の会議の後などに気の合う人と二人で、「あんな発言したけど実は・・・」とか、「これは、ここだけの話なんだけど・・・」なんてことがいっぱいあって、それがプロジェクトを進める原動力になっていたという話も聞きます。我々の世界でも、そんなオフレコの話の中から新しいアイデアが生まれた場合もたくさんあったのです。ところが、オンライン会議ではそれができません。本音を語る場として、ネットでつながりながら、各自が自宅で酒を飲むようなオンライン飲み会も、すぐに飽きられてしまいました。

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、ベストセラーになった「サピエンス全史」の中で、約7万年前に人類が認知力を獲得する過程で、うわさ話により私たちの言語が発達したという説があると書いています。当時の社会の中では、どこに危険な動物がいるかという情報より、誰が誰を憎んでいるか、誰と誰が寝ているかなどのうわさ話のほうがずっと重要だったらしいのです、現在もSNSで皆がやっていることと同じですよね。会社の会議でも学者の学会でも、会場に集まった人々が、公式の議論の後で握手しながら本音を語り合う、オフレコの話で盛り上がることの方が建設的で、新しい展開を生んでいたと思います。現在のオンライン会議などでは、この部分がすっぽりと抜け落ちているのが何とも残念です。いずれ、新たな情報技術がこの問題を解決してくれると思いますが、その前に何とかコロナ禍が収束し、オンラインと対面を、状況に応じて使い分けられるような時代が来ることを願っています。

6月後半からは梅雨の時期になります。体調を崩しやすい時期でもありますので、くれぐれもご自愛のほど。

山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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