桜の下で平和を願う
今年も桜が綺麗に咲きそろいました。つぼみが膨らんだ頃から気温が上下した影響か、見事に一気に開花し、薄紅の柔らかい花びらがたわわに咲き誇っています。私も本当に桜が好きで、毎年この時期には桜の感想を書いてきましたが、残念なことに、相変わらずのコロナ禍と新たなウクライナ問題で、心置きなく桜を愛でる気分になれません。
年年歳歳花相似たり 歳歳年年人同じからず
唐代に詠まれた詩の一部ですが、桜は毎年同じように咲いても、桜を見る人も変わり、同じ人でも桜を見る心のありようは変わる。悠久の自然は変わらないけれど、人間界に不変はない。これが自然の理なのでしょう。
コロナ第6波のピークは過ぎ、アップダウンはあるものの徐々に収束に向かっています。まだまだ油断はできませんが、最近は感染しても自宅安静だけで軽快する例がほとんどで、重症化する患者さんは激減しました。死亡率は、第1,2波のころ5%近かったのに、現在では0.1%まで減少しています。オミクロン株が肺炎を起こす可能性が低いことに加えて、ワクチン接種が進んだことが影響しているでしょう。全国民の40%が3回目のワクチン接種を済ませましたが、私の外来を受診中の患者さんは90%以上が3回目接種を受けておられます。このコラムでワクチン接種の重要性を書いてきたことが接種率の高さに関連しているようであれば、うれしい思いがします。
ただ、コロナより心を痛めるのはウクライナの惨状です。我々日本国民は、地続きの国境を持たず、民族的にも均一であるがゆえに、ロシアとウクライナ間の問題を深く理解できないのかもしれませんが、地震や台風のような天災ではなく、過去の栄光を希求する一人の狂人とその取り巻きがもたらした人災であるがゆえに、憤りが止まりません。
実は、私は毎年、近くの神社で厄除けのお祓いを受けております。その神社では、88ある願い事の中から一つ選ぶと神前でお願いしてくれるのですが、私は数年前から毎年「世界平和」をお願いしております。今年も2月初めに「世界平和」をお願いしたばかりなのに、その2週間後に戦端が開かれてしまいました。私一人では何としても力不足のようであり、全ての日本人が、心から「世界平和」をお祈りする時ではないかと思います。
平和とは「戦争のない状態」と定義されています。大作「戦争と平和」を書いたトルストイがロシア人であることは何とも皮肉ですが、そのトルストイが書いたという言葉を、今、深くかみしめたいと思います。平和を希求する者のひとりとして、全てのロシア人が加害者でないことを祈りながら。
他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。 他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ。
―トルストイ
なお、私は久しぶりにNHKに出演します。以前にも出た『チョイス@病気になったとき』。関節リウマチに関する解説で、収録を済ませました。受診中の患者さんにもご協力いただきました。ご協力していただいた方への感謝を込めて、ご覧ください。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿
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山中医師が2011年から8年間にわたって毎月書いてきたエッセイは下記のサイトで見ることができます。
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