保健所の皆様に感謝を
今年はずいぶん寒い冬でした。朝出かける時など、まだ空気がキンと冷え切っている感じがしますが、もう3月。早春賦の歌詞にある「春は名のみの風の寒さや」が思い出される日々です。これから三寒四温の季節を経て、桜前線が北上し、3月末には東京も桜満開の季節になります。コロナ禍といい、ウクライナ問題といい、毎日不安感に苛まれる日々ですが、悠久の自然は変わることなく、四季の移ろいを我々に届けてくれます。コロナもウクライナもとても大きな問題ですが、地球の息吹や大自然の営みを変えることはできない。右往左往する我々を、地球は、大自然は、悠然と眺めている、と思うと、少しは気が晴れる気がします。
この2年間のコロナ禍で、我々はいろんなことに気づきがありました。その一つに、保健所を含む自治体の存在があります。
日本国民は全員が、世界に誇れる国民皆保険制度の恩恵で、健康保険、国民健康保険、共済組合など何らかの公的医療保険に入っていて、誰でもどこの医療機関を受診することもでき、同じ額の支払いで医療が受けられます。例えば北海道の人が東京の病院を受診しても、健康保険証さえあれば事務手続きなしに診療を受けられます。特に慢性疾患を持つ患者さんにとっては、自分の健康を守ってくれているのは受診している医療機関であり、医師だと思っている人も多いのではないかと思います。
ところが、コロナ禍になって、日本国民は居住地の自治体や保健所にも、きちんと守られていることが、具体的にわかりました。PCR検査で陽性が出れば、その医療機関の医師は所轄の保健所に届け出を出し、そこから患者さんの居住地の保健所に連絡がいき、居住地の保健所が患者さんの健康管理を請け負います。第6波ではあまりの患者数の急増のために、自治体によっては十分な手当てができていませんが、当初は保健所が患者さん全員に電話連絡し、病状の確認から生活指導、入院先の手配までしてくれました。
元々、結核やコレラ、ペストをはじめとする伝染性の強い感染症は感染症法により、医師は患者全員を保健所に届け出を出し、居住地の保健所が適切な医療を提供するシステムになっています。今回のコロナも感染症法に「新型インフルエンザ等感染症」として定められ、同じシステムが稼働したわけです。保健所は地域住民の健康や衛生を支える機関ですが、その業務は食品衛生から水質管理、健康診断、精神保健、母子手帳の発行、災害時の医療など、列挙できないほど多岐にわたっており、国民生活に深く根付いています。その中で、今回は寝耳に水のようなコロナ患者の急増に忙殺されている保健所の皆様のご尽力には、本当に頭が下がる思いです。
さらに、ワクチンの接種状態の把握や接種券の発行、集団接種会場の準備などは居住地の自治体の役割です。国民皆保険というと、保険診療のことばかりに目が向いてしまいますが、上記のような地域に根付いた社会福祉が国民の健康生活には不可欠であり、私たち日本国民はこのようなシステムに守られていることを今一度、自覚せねばならないと思った次第です。保健所や自治体の皆様に感謝を込めて。
三月の 声のかかりし あかるさよ ― 富安風生
コロナにせよ、ウクライナにせよ、一刻も早く解決してほしいと思う毎日ですが、まだまだ寒い日が続きます。皆さま、どうぞご自愛のほど。
山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿
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