新・リウマチ歳時記 Vol.8(2020.3.2)

2020年03月02日 新・リウマチ歳時記

「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」桜を愛でる気持ちを逆説的に表現した古今和歌集にある在原業平の有名な歌ですが、今年の春ばかりは様相が違います。

「世の中にたえてコロナのなかりせば 春の心はのどけからまし」

世の中は新型コロナの話題で持ちきりですが、実生活にも大きな影響を与えています。しかしながら、テレビなどの解説が、誤解や心配を生んでいると感じることが多々ありますので、正しい知識を持つことが大切だと痛感しています。

まず、コロナウイルスは本来風邪のウイルスですので、罹患してもほとんどは軽症で治ります。呼吸管理が必要なほど重症になるのは一部であり、これは同様のウイルス感染症であるインフルエンザと同じです。基本的には新しいインフルエンザが流行している、と考えるべきです。いずれは多くの人々が新型コロナウイルスに罹患することになると思います。ほとんどの人は軽い症状で済み、体内に抗体ができます。そのうちにコロナウイルスの力も弱まってくるはずですので、影響力は下がります。ですから、同じ罹患するなら遅いほうが良いので、今の時期に罹らないことは意味があると思います。

次に、新型コロナウイルスのPCR検査ですが、陽性なのに陰性と判断される「偽陰性」があることを知らねばなりません。コロナウイルスはRNAウイルスですので、正確にいうとPCRではなく、RT-PCRという方法を使っていると思われます。喉の粘膜や鼻汁を検体としてウイルスを調べるのですが、ウイルスがいても量が少なかったり、うまく採取できなかったりすると陰性になってしまいます。また、新しいウイルスに対する検査ですので、検査自体が十分に検証されていない可能性もあります。つまり、陽性と判定されれば確実にウイルスがいますが、陰性と判断されてもウイルスがいないことの証明にはならない、ということです。陰性と判定されていた人が、後日、陽性になった例が報告されているのは、たぶんこの「偽陰性」であったと思います。つまり、安心したいために検査を受けることは意味がありません。検査の必要な人は、単に風邪症状だけでなく、ひどい咳や呼吸困難が出てくるような重症と思われる場合であり、今までの厚生労働省の基準はあながち間違いではなかったと考えています。これを書いている2月29日の時点では、これからコロナウイルスの検査が一般にも行われるようですが、安心したいことが目的で病院を受診して検査を受けることがないように、注意してほしいと思います。病院の待合室は、最も感染の可能性が高い場所であることをお忘れなく。

あと、高齢者や糖尿病などの基礎疾患を持った人は重症化しやすいと言われており、免疫抑制薬を使っている人もそのリストに入っています。リウマチや膠原病の患者さんは、免疫を抑制する薬を服用していただいていますので、さぞ心配されていることと思います。しかしながら、現在までリウマチや膠原病の患者さんや免疫抑制薬を服用している患者さんで、新型コロナウイルスに罹りやすいとか重症化しやすいというデータはありません。このことはインフルエンザでも同様です。ですので、必要な免疫抑制薬、生物学的製剤、抗リウマチ薬、ステロイドは、原則として同じ用量で続けてください。日本リウマチ学会のホームページでもこのことを注意喚起していますので、ぜひご覧になってください。https://www.ryumachi-jp.com/information/medical/covid-19_2/

ただし、実際にインフルエンザやコロナウイルスに罹患して高熱が出た場合は、一時休薬をする必要がありますので、その場合には、主治医の先生に連絡を取って対応してください。

このコロナ騒動がいつ終息するか、現時点ではわかりませんが、私たち皆が正しい知識を持つことにより、一刻も早く終息し、「春の心はのどけからまし」といえる日々が戻ってくること願っています。

山王メディカルセンター副院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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