新・リウマチ歳時記 Vol.52(2023.11.1)

2023年11月01日 新・リウマチ歳時記

「異次元」って何?

長かった夏も終わり、短いけれども素晴らしい秋を堪能できる気候が続いています。美味しい秋の味覚を、食べ過ぎず、満腹にならず、よく味わって食べる、ことを考えながら、楽しみたいと思います。

最近、「異次元」という表現をよく耳にします。異次元の金融緩和だとか、異次元の少子化対策とか、異次元の選手補強だとか、異次元の値上がりだとか。要するに「今まで経験したことのない」ことを意味するようですが、私も含め理科系思考の人々は、何だかなあって思っているでしょう。次元とは空間の広がりを示す指標で、一次元は点、二次元は線、三次元は立体空間、四次元は三次元+時間。次元か異なると見える世界がまったく異なります。例えば、我々は三次元の住人ですから、二次元の事象が手に取るようにわかりますが、仮に二次元に住人がいたとすると、三次元の世界があることすら夢にも思いません。したがって、「異次元」というと、我々の住む世界とは異なる世界の話ということになりますので、「異次元の値上がり」というと、5倍や10倍どころの話ではなく、世界中のお金を全部集めても支払えない高値を意味することになります。「異次元」という言葉が大安売りされている感じです。お笑いタレントがパロディで言うならともかく、立派なメディアや政治家が使う言葉ではないと思いますが、いかがでしょうか。
昔むかし、子供のころに読んだ西遊記の中で、孫悟空が金斗雲に乗って地の果てまで飛んで行ったけれど、そこはまだお釈迦様の掌の中であった、という逸話を思い出しました。「異次元の・・・」という表現は、結局のところ、お釈迦様の掌の中の話で孫悟空が頑張ったようなものだと思いますね。

これに限らず、メディアが伝える情報には誇張が多すぎます。地震や台風の災害でも、最も被害の大きな個所の映像が切り取られて映し出されます。それ自体は事実だけれど全体像ではないものを、視聴者は自然に一般化してしまいます。そういう報道が増えると、視聴者は慣れてしまって、普通に伝えるとインパクトが低くなる、だからさらに刺激的な言葉を使い、過激な映像を流すという悪循環が生まれます。災害予報で、「これまでに経験したことのないような大雨」などの表現が使われるようになったのも、そのためだと思います。「報道された内容は全部、話半分で聞くのが常識」なんて世界になってほしくないと、心から思いますが、そうなりつつあるように思います。さらに、メディア報道だけでなく、我々の日常会話でも、しだいに刺激的な表現が増えているように思います。「ばかやろう、みたいな」とか「大好き💛、みたいな」のように、普通なら口に出せない過激なことを言ってから、「みたいな」という接尾語的な言葉で刺激を和らげる表現は、そのひとつかな、と思います。

言葉が、時代を色濃く映しながら進化していくのは当然のことだとは思いますが、いろいろ考えさせられる時代ですね。仮に、四次元世界に住人がいたとすると、私たちの三次元空間で使われている「異次元」という表現を、お釈迦様の掌のなかで威張っている人がいるなあ、と思っているのに違いありません。

コロナは一段落の様子ですが、今年はインフルエンザが流行りそうです。皆様、予防接種を早めに受けることをお勧めします。

リウマチ・痛風・膠原病センターのご案内
山中医師の新・リウマチ歳時記アーカイブス

山中医師が東京女子医科大学にて2011.8~2019.4に連載した「センター便り」はこちら</