卵子凍結・妊孕性
(にんようせい)温存
当院では、女性のライフステージや医療上のニーズに応じた卵子凍結サービスを提供しています。
当院の社会的卵子凍結は、キャリアや将来の計画に合わせて出産を考える女性に適しています。
がん治療などで妊孕性(にんようせい)が影響される方に対しては、卵子や受精卵、卵巣組織の凍結を通じて、将来の妊娠可能性を高め妊孕性温存療法を行うことができます。
社会的卵子凍結
当院では、従来より医学的適応による(がん治療などに伴う)卵子凍結を実施してまいりましたが、リプロダクティブヘルス(性や子どもを産むことに関わることにおいて、本人の意思が尊重され、自分らしく生きられること)を守る観点から、リプロダクティブ卵子凍結としていわゆる社会的卵子凍結も行っています。ご関心のある方はご相談ください。
卵子凍結(未受精卵凍結)とは
卵子は胎児期より減少し、加齢の変化(※1)を受け受精能も低下します。卵子凍結とは、将来の妊娠・出産に備えて、年齢の若い時点での卵子を事前に採取し凍結保存しておくことです。基本的に未婚の女性が対象となり、社会的卵子凍結と医学的卵子凍結に分類されます。
社会的卵子凍結とは、健康な女性が卵子の加齢による妊娠率の低下を回避する妊孕性温存(将来自分の子どもを授かる可能性を残す)療法です。将来妊娠を希望した時に凍結した卵子を融解し、体外受精(生殖補助医療:ART)を用いて妊娠をめざします。
卵子の加齢について(※1)
日本生殖医学会ホームページ Q.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?
卵子凍結のメリット
加齢により(特に38歳以上)、妊娠率が低下し流産率が増加します。これらは、卵子の染色体異常や受精後の胚発育の悪化により起こると考えられていますがメカニズムは明らかでなく、残念ながら現時点ではその予防方法もありません。
何らかの染色体異常をもつ子が生まれる頻度
資料:Hook EB(Obstetrics and Gynecology 58:282-285, 1981)Hook EB, Cross PK, Schreinemachers DM(Journal of the American Medical Association 249(15):2034-2038, 1983)を元に母子保健課にて作成
卵子凍結は、女性が将来の妊娠の可能性を広げるための選択肢として注目されています。
以下は、その主なメリットです。
キャリアやライフプランの柔軟性
キャリア形成やパートナーとの出会い、その他個人的な理由で出産をゆっくり考えたい女性にとって、卵子凍結は計画的な出産の選択を可能にします。
医療処置を受ける前に妊娠の可能性を確保
がん治療など、妊孕性に影響を与える可能性のある医療処置を受ける前に卵子を凍結することで、将来的な妊娠のチャンスを確保できます。
女性の年齢別の出産率
※提供卵子(およそ20~30代前半)と患者自身の卵子、受精卵を使用した際の患者年齢別の出産率を比較
※アメリカ疾病予防管理センター(CDC)発表の2003 ART Success Rates in USAを用いて作成
凍結した卵子を将来使用する際の妊娠率について
アメリカ生殖医学会(ASRM)の卵子凍結に関するガイドライン(2013年)
凍結卵子の融解後生存率 | 71~79% |
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受精率 | 90~97% |
着床率 | 17~41% |
移植当たりの臨床的妊娠率 | 36~61% |
凍結時の年齢で、妊娠率・出産率は変化します。したがって、少なくとも8~10個以上の卵子を凍結する方が望ましく、かつ年齢が若いほど少ない個数でよいと考えられます。
なお、上記成績は2013年以前のもので、現在では成績は大幅に向上していると考えられます。当院では今後の臨床成績をまとめ、公表していく所存です。
未受精卵の凍結保存の概要(年齢・受精・保存期間等)
年齢について
採卵可能年齢:原則、20歳から40歳誕生日まで
凍結卵子の使用年齢
原則として、45歳誕生日まで
融解後の受精について
使用する精子:パートナー(婚姻関係もしくは事実婚関係にある方)のもの
受精方法
体外受精(顕微授精)を行います
保管期間・契約について
保管期間:原則、最長10年(1年毎自動更新)かつ45歳誕生日まで。45歳以降も保管期間の更新を希望される方は個別にご相談ください。
使用年齢の上限
妊娠・分娩時の産科的合併症を考慮して、原則満45歳までとしています。
ご注意
採卵前に健康状態チェック(問診、内診、各種⾎液検査で約2万円)を行います。
健康状態が採卵(および将来の妊娠)に医学的に望ましくないと判断した場合には、当院での採卵はお受けできない場合があります。
卵子凍結の流れ
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ご相談
通院1回目- 個別相談/初診
- 月経周期にかかわらず、お越しください。卵子凍結のご説明と、卵巣予備能など妊娠にかかわる個別検査を行います。
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卵巣刺激
(10日前後)通院2~4回目- 月経2~3日目から
- 患者様それぞれの卵巣機能やスケジュールに応じた卵巣刺激方法を選択します。およそ10日間の注射や内服を行い、その間3回程度の通院が必要です。
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採卵
通院5回目- 採卵当日
- 麻酔科医による静脈麻酔もしくは局所麻酔を用いて、経腟超音波下に採卵を行います。午前中に帰宅となります。
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凍結保存
通院6回目- 採卵翌日~1週間後
- 凍結結果のご報告と、採卵後の診察を行います。
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更新
- 更新
- 保管期間は原則、最長10年で1年ごとの自動更新となります。保管料の支払いについては、期間を1年、3年、5年から選択できます。
社会的卵子凍結の留意点・よくある質問
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- 卵子を採卵するにはどういう準備が必要?
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およそ10日間の注射や内服を行います。その間3回程度の通院が必要です。卵巣刺激方法は、患者様それぞれの卵巣機能やスケジュールに応じて選択します。
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- 通院回数は?
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通院は5~6回前後必要ですが、患者様によっては回数が多少変動することがあります。
1回目:説明および個別検査など
2~4回目:卵巣刺激
5回目:採卵当日
6回目:凍結結果のご報告、診察
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- 卵子は何個くらい採取できる?
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一般的に年齢が若いほど、より多くの卵子を採取しやすいです。しかし、卵子の採取量は、ご年齢、 卵巣予備能(健康状態)、ホルモンレベルなどに影響されるため、同じ年齢でも人によって異なります。医師が患者様との相談の上で最適なプランを立て、卵子の採取量を最大化するための適切な治療法を提案いたします。
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- 卵子の数はどれくらいとればよい?
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年齢が上がるほど個数は多い方が良いですが、だいたい10個前後です。子どもをひとり出産するために必要な凍結卵子の数と出産率は下記のデータのとおりです。ご年齢や2人目の可能性も考えて、採取する数を医師にご相談ください。
採取卵子数と子ども1人生まれる確率
採卵時年齡 10個 20個 30個 30~34歳 約55% 約80% 約90% 35~37歲 約50% 約75% 約90% 38~40歲 約35% 約60% 約75% 41~42歲 約20% 約40% 約55% 参考資料:Fertil Steril.2016 Feb;105(2): 459-66
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- 採卵は複数回する必要がある?
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年齢や卵巣予備能によって個々に違います。若年であれば少ない個数でよく、また卵巣予備能が高ければ1回当たりの採卵数も多いため不要になりますし、高年齢では必要卵子数は増え、卵巣予備能が低くなれば、複数回必要となる可能性があります。
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- 自分の卵巣予備能はどうしたらわかる?
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AMH(抗ミュラー管ホルモン)という検査で年齢別に平均がわかり、目安になります。
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- どうやって採卵するの?
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採卵周期は、月経時から全て経腟超音波を使用します。採卵当日も同様に経腟超音波ガイド下で卵巣に細い針を穿刺し、吸引しながら採卵します。
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- 痛みはありますか?
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当院では常勤麻酔科医がおりますので、静脈麻酔(ほぼ眠った状態)で痛みを極力抑えて採卵ができます。もちろん局所麻酔、無麻酔にも対応しております。
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- 副作用はある?
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排卵誘発剤の副作用で、吐き気・頭痛・倦怠感・めまいなどの症状が現れることもあります。また、卵巣が膨れ上がりお腹や肺に水がたまるなどの症状が起こる可能性もあります。採卵時には腟から卵巣に向けて針を刺すため、感染や出血のリスクもあります。
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- 卵子凍結で生まれてくる子へ何か影響はある?
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欧米では従来より実施されており、現在のところ影響については報告がございません。若い時の卵子を使用することで、高齢出産で心配される染色体異常(ダウン症など)の確率が減少します。
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- どのくらいの期間凍結は可能?
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長期間保存が可能です。当院における凍結卵子の融解後生存率は90%以上とされていますが、妊娠・分娩時の産科的合併症を考慮して、原則満45歳までとしています。45歳以降も保管期間の更新を希望される方は個別にご相談ください。
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- 凍結した卵子を使って将来自然妊娠は可能ですか
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凍結した卵子は、融解して精子と体外受精(顕微授精)を行います。一方、自然妊娠とは、排卵のタイミングで性交渉が行われ受精した卵子が子宮内に着床することです。ですので、凍結卵子を使用する場合は自然妊娠とはなりません。
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- 凍結卵子はどのように保存するのですか
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患者様毎の専用容器に1~4個の卵子を入れ、液体窒素(-196℃)中で保存します。液体窒素中で保存することで凍結時に持っている卵子の妊娠する力(妊孕性)を半永久的に維持することができると言われています。
卵子凍結の費用
卵子凍結だけの費用は、費用一覧ページよりご確認ください。
凍結検体(「凍結卵子」「凍結胚」「凍結精子」「凍結SHEET」)の保管料が不払いの場合、当院の判断で、当該凍結検体を廃棄させていただきます。
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- 採卵・凍結にかかる費用
- 目安
338,000円 ~ 420,000円
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- 凍結後にかかる費用
- 目安
49,500円 ~ /年
プレコンセプションケアについてのご案内
将来の妊娠に対する備えは、卵子凍結だけではありません。未来の自分や子供のために、日々の生活や健康について向き合いませんか。
がん治療前・治療中に
妊孕性温存を希望される方へ
妊孕性温存とは
抗がん剤や放射線照射は、卵巣内の卵子数減少や精巣の精子を作る機能の低下を引き起こし、将来の生殖機能を低下させる可能性があります。こうした患者様の、妊娠できる能力を温存することを妊孕性温存といいます。
具体的には、女性であれば卵子や受精卵、卵巣組織の凍結という方法があり、男性であれば精子凍結がその方法となります。妊孕性温存療法によりがんの病状が悪化したり、治療開始が遅れたりするリスクもあるため、この治療には原疾患の主治医の承諾書が必要となります。
女性の妊孕性温存について
対象
女性の場合、原則として43歳未満の方が対象となります。
婦人科がんの場合には状況が異なるので主治医にご相談ください。
方法
女性の妊孕性温存には以下の3つの方法があります。
・卵子凍結…精子と受精させる前の未受精卵子の凍結
・受精卵凍結…卵子と精子を受精させてできた胚の凍結
・卵巣組織凍結…腹腔鏡手術で卵巣を摘出し皮質(卵巣表面の組織)を凍結
患者様の年齢や婚姻状況等により妊孕性温存の方法は異なります。
卵子凍結より受精卵凍結の方が融解後の妊娠率がやや高いため、ご結婚されている方はできるだけ受精卵凍結を行います。未婚の方や受精卵凍結がむずかしい方は卵子凍結を行います。どちらも通常の体外受精と同様の排卵誘発と採卵が必要です。
排卵誘発をする時間的余裕がなく緊急で抗がん剤治療や放射線治療を開始しなくてはならない患者様には、卵巣組織凍結という方法があります。腹腔鏡下手術で片側卵巣を摘出し、卵巣組織を小さく切片化して凍結保存するという方法です。がん治療が終了し妊娠の許可が下りた時に凍結卵巣組織を融解し体内に移植します。
こちらは京野アートクリニックグループの日本卵巣組織凍結保存センター(HOPE)との協力体制の下で行っており、当院ではHOPEに登録をしていただいた患者様の腹腔鏡下手術を行っています。卵巣組織凍結に関して詳しくは京野アートクリニックホームページをご覧ください。
男性の妊孕性温存について
近年、がんの集学的治療成績の向上とともに治療後の患者様の生活の質(QOL)も上がって、長期生存例が増えてきています。現在では小児、思春期・若年がん患者における妊孕性温存療法は、がん治療医の多くが考慮すべき極めて重要な課題であると認識されています。一般的に抗がん剤治療により一旦造精機能は低下し、無精子症に陥ることもまれではありません。また骨盤内の臓器の手術によっては勃起不全、射精障害等の性機能障害が起こることがあり、性行為が出来なくなる場合もあります。
このような患者様に対して当院では治療が開始される前に射出精子を凍結し、がん治療が終了した後に妊活を開始する妊孕能温存療法を行っております。
対象
泌尿器疾患では精巣腫瘍があります。精巣腫瘍は20歳~30歳代に好発するがんで、生殖年齢に多いことから担当医から治療前に精子凍結保存を希望されるか十分な説明がなされます。
その他白血病や悪性リンパ腫、消化器がん、脳腫瘍、悪性黒色腫、骨軟部腫瘍等のあらゆる悪性疾患の患者様が対象になります。
方法
病気の進行状況により異なると思われますが、患者様本人が当院へ来院可能な場合には、ご来院の上、精液を採取していただきます。当院まで来られない患者様は入院先の病院で精液を採取してご家族に届けていただきます。なお1度目の精液所見が悪い場合には治療まで余裕がある方であれば再度精液を取り直していただくことも可能です。この場合には凍結保存料を2回分お支払いいただきます。
当院では祝日(日曜日を除く)でも精子凍結保存が行える体制を取っております。
来院時の精液検査で無精子症の場合
精巣腫瘍の患者様は、時に無精子症の方がおられます。その場合、精子は凍結保存できませんので、ただちにがんの治療を開始していただきます。
治療終了後に再診していただき、無精子症が続いている場合は、精巣内精子回収術を行うと精子が採取できることがあり、顕微授精によって妊娠できる可能性があります。
妊孕性温存の費用
妊孕性温存の費用は、費用一覧ページよりご確認ください。