新・リウマチ歳時記 Vol.14(2020.9.1)

2020年09月01日 新・リウマチ歳時記

「潰瘍性大腸炎」は自己免疫疾患のひとつ

今年は梅雨が長く、なかなか夏の眩しい太陽が来ないと思っていたら、いざ梅雨が明けると連日の猛暑。おまけに、コロナ禍が加わって、我々の生活リズムだけでなく季節感も狂ってしまったように感じます。今年はお盆どころではなかったですね。お盆は、日本人にとっては先祖の霊を祀る大切な行事。私も毎年、故郷(滋賀県甲賀市)での墓参りは欠かさなかったのですが、今年はついに行けませんでした。

コロナ禍の最中ですが、先週は安倍晋三首相の辞任会見と言う驚きのニュースがありました。安倍晋三首相は、私と同じ昭和29年生まれです。潰瘍性大腸炎のために、首相の職を2度も辞する羽目になったことに、心中を察して余りあります。

潰瘍性大腸炎は、関節リウマチなどと同じような自己免疫疾患の一種です。自己免疫疾患は、本来は自分の体を守る免疫システムが、どういうわけか体の中を攻撃し始めてしまう厄介な病気で、その攻撃の矛先が関節だと関節リウマチになり、腸管粘膜だと潰瘍性大腸炎になり、甲状腺だと橋本病になったりします。実は、潰瘍性大腸炎の患者数は急激に増えていますが、なぜか。消化管は、食べた食物を分解し、栄養分を吸収し、残りを老廃物として排泄する働きを持っています。歴史的に見ると、つい最近まで人類が食べていた食物は、病原菌がいっぱいいたり、腐敗したものもあったはずです。このような食物からの病原体を体に入れないために、腸管粘膜には免疫を司る細胞が豊富に配備されていて、感染を防止し、我々の体を守っています。現在も、体内のリンパ球の60%は腸管にあるといわれます。ところが、最近では食品衛生が徹底して、新鮮で無菌の食べ物しか口に入らなくなりました。無菌の食べ物しか腸に送られてこないので、腸管に配備されているたくさんのリンパ球の仕事が減り失業状態です。ヒマになるとろくなことをしない人も多いと思いますが(私も含めて)、リンパ球も同じことで、仕事がなくなると悪さをし始めて、腸管を攻撃しているのではないか、つまり衛生的な生活をすることが、潰瘍性大腸炎の増加につながっているのではないか、という考えがあります。仮説ですが、私はとても説得力があると思います。衛生的過ぎる生活も、良いことばかりではないという教訓なのかもしれません。何しろ、人体がプログラムされた時には。無菌パックされたレトルトのお米を食べるような未来が来るとは、誰も想像していなかったのですから。

以前は重症の潰瘍性大腸炎に対して、手術で腸管を切除することも行われたのですが、幸いなことに、医学の進歩により潰瘍性大腸炎を増悪させる物質がいくつか発見されて、その物質の作用を抑制する新しい治療法が開発されています。TNFというたんぱく質に対する抗体製剤が一般的ですが、これは関節リウマチの治療にも使われる生物学的製剤です。その他にも、腸管のリンパ球を減らす薬剤も開発されて、2年前から臨床で使われています。安倍晋三氏は、会見の中で点滴治療を受けているとお話しされていましたので、このような治療を受けられていると思われますが、時間をかけて十分な治療をお受けいただき、再度、捲土重来を目指していただければ、と思っております。なにしろ私と同い年。まだ老けこむには早いですよね。

まだまだ残暑が続きます。コロナに加えて熱中症にご注意いただき、ご自愛のほど。

山王メディカルセンター院長 リウマチ・痛風・膠原病センター長
山中 寿

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