内視鏡手術

不妊治療の検査・治療中には、子宮筋腫や卵巣嚢腫(腫瘍の一種)などが見つかることがあります。さらに、最近増加している子宮内膜症も、骨盤腔内の癒着を引き起こすことが多く、不妊症の一因となります。
これらの疾患がある場合は、人工授精や体外受精などを繰り返すだけでは効果がないことがあります。
手術によって筋腫や嚢腫を摘出したり、癒着を解消したりすることが必要です。この際に威力を発揮するのが内視鏡手術です。
従来であれば開腹して行わなければなりませんでしたが、最小限のサイズの術創で同様の手術を行えます。入院期間も短くてすみ、早期の社会復帰も可能です。
内視鏡手術には、腹壁より腹腔内へアプローチする腹腔鏡手術と、子宮頸管より子宮内腔へアプローチする子宮鏡手術とがありますが、当院においてはそのいずれに対しても対応が可能となっています。
腹腔鏡手術は子宮筋腫や卵巣嚢腫、卵管や骨盤内の癒着などに対して行われ、子宮鏡手術は子宮内膜ポリープや粘膜下子宮筋腫などが対象となります。
当院には経験豊富なスタッフがそろっており、生殖補助医療と内視鏡手術を組み合わせて効果的な治療を提供しており、より良い結果が期待できます。

内視鏡手術で治せる不妊症に関連する疾患

当センターにて手術を実施したケースでは、術後に約半数が自然妊娠、約半数が体外受精で妊娠をしています。

子宮筋腫

子宮筋腫は、子宮筋層に発生する良性腫瘍で、30歳以上の女性の20~30%にみられます。当院では、超音波やMRIで子宮筋腫の状態を確認し、不妊の原因になると判断される場合、腹腔鏡(補助)下子宮筋腫核出術や子宮鏡下子宮筋腫核出術で病変を摘出し、妊孕性(妊娠する能力)の向上をめざします。

【粘膜下筋腫】不正出血や不妊娠の原因になります。【筋層内筋腫】小さいものでは症状がありませんが、大きくなると不出血や流・早産の原因となります。【漿膜下筋腫】大きくなるまで症状が乏しい。

子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープは、子宮内膜に発生する良性腫瘍で、発生部位や大きさによって妊娠の妨げになることがあります。不正性器出血を起こすこともありますが、無症状なことも多くあります。
当院では、超音波で子宮内膜ポリープが疑われる場合、外来で子宮鏡を用いて病変を確認します。
治療が必要と判断される場合は、麻酔下で子宮鏡下子宮内膜ポリープ切除術を行い、妊孕性の向上をめざします。

【子宮内膜ポリープ】不正出血を起こすことがありますが、無症状なことも多くあります。

子宮内膜症

【腹膜の子宮内膜病変】周囲臓器との癒着を起こし、痛みや卵子の輸送障害などの原因になります。【チョコレートのう腫】破裂すると激痛を起こします。卵子の質を低下させる原因になります。【子宫腺筋症】月経痛や月経量の増加を起こします。不妊や流産のリスクが上がると言われています。

卵管閉塞と卵管留水腫

自覚症状はなく、不妊スクリーニング検査のエコーや子宮卵管造影検査などで診断されます。自然妊娠を希望する場合、当院では腹腔鏡下卵管形成術や卵管鏡下卵管形成術で卵管の再疎通を図る手術を行うことができます。
卵管留水腫は、卵管の遠位端(卵巣寄りの卵管)が閉塞し卵管の内腔に卵管液が溜まった状態です。卵管液が子宮内膜に流入し着床を阻害するため、不妊の原因となります。自然妊娠を希望する場合は腹腔鏡下卵管形成術を、体外受精での妊娠を期待する場合は胚移植の前に腹腔鏡下卵管摘出術を行います。

【近位端での卵管閉塞】卵管鏡下卵管形成術の適応になります。【遠位端での卵管閉塞と卵管水腫】腹腔鏡下卵管形成術や卵管摘出術の適応になります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群は、月経異常、多嚢胞卵巣、ホルモン異常を特徴とし、排卵が規則的に起こらないため不妊の原因となる病気です。通常、排卵誘発剤を使用し排卵を促しますが、排卵誘発剤では多数の卵胞が育ってしまうなど、コントロールがむずかしい場合があります。コントロール不良な場合の治療のひとつとして、腹腔鏡を用いて卵巣に多数の小さな穴を開ける(腹腔鏡下卵巣開孔術)ことで、排卵の改善を図る方法があります。

【多のう胞性卵巣症候群】月経異常を伴う排卵障害となります。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術とは、臍(へそ)を5mm~1.5cm切開し、ポートという操作器具の通り道を作り、二酸化炭素でお腹を膨らませます。腹腔鏡という高性能カメラでお腹の中を観察したのち、下腹部2~3か所(3~5㎜)に追加でポートを挿入し、そこから細長い鉗子を通して手術を実施します。不妊の原因となる婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜症、卵管留水腫など)の多くは腹腔鏡手術で治療が可能です。入院期間は手術内容により前後しますが、5日以内に退院できる方がほとんどです。当院では原則として外来主治医がそのまま手術を担当しますが、執刀医を指名することもできますのでお気軽にお申し付けください。

メリットGood points

  • 傷が小さいので傷跡が目立たず、術後の痛みが少ない
  • 入院期間が短くて済む
  • 術後の癒着が少ない
  • 高機能カメラで奥深くまで詳細に観察できる
  • 術後に、術中写真を用いた説明ができる

デメリットBad points

  • 大きな子宮筋腫や激しい癒着のある内膜症など、むずかしい手術には適さない場合がある
  • 頭を下げ、眼圧が高くなる可能性があるため、緑内障などの既往症がある方に適さない
  • 低頻度ながら、合併症の発生に伴い開腹手術に移行する場合がある
どんな患者様が向いている?
  • 早期に社会復帰したい方
  • 術後の傷跡を小さくしたい方
子宮筋腫
卵巣腫瘍
卵管留水腫

vNOTEs(経腟的腹腔鏡手術)について

近年、腹腔鏡のカメラをお臍からではなく、腟壁からお腹の中に挿入する手術(vNOTES)が日本で実施できるようになり、当院でも導入しています。腟壁のみの傷で手術できるため、腹腔鏡手術よりさらに痛みが少なく、手術跡のない低侵襲手術が可能となりました。すべての症例に実施できるわけではないので、ご希望があれば担当医にお申し付けください。

vNOTEsは、腟壁を3cm切開し、膣壁とお腹の中をつなげます。専用の器具で、トンネルのように空間を広げ、腹腔鏡と同じように二酸化炭素を流してお腹を膨らませます。その空間から、腹腔鏡と同じようにトロッカー、鉗子を用いて手術をします。もともとお腹に近い腟から手術をするので、操作スペースは腹腔鏡より狭くなりますが、その代わり膣壁の傷一つで済みます。入院期間は3日以内です。

メリットGood points

  • 腹腔鏡よりさらに傷が少なく、術後の痛みも少ない
  • 入院期間がさらに短い

デメリットBad points

  • 操作スペースが狭いので、腹腔鏡よりも適応となる症例、疾患が限られる
  • 腹腔鏡よりもお腹の中を詳細に観察できない
  • 手術がむずかしかった場合、腹腔鏡に移行する可能性がある
どんな患者様が向いている?
  • 卵巣の良性腫瘍(内膜症以外)
  • お腹の癒着がほとんどないと予想される方(内膜症がない方、お腹の手術したことがない方など)

子宮鏡手術

当院では従来のループ電極型子宮鏡システムに加えて、低侵襲シェーバー型子宮鏡(硬性細径子宮鏡モルセレーションシステム)も使用しており、より低侵襲な治療が可能です。

子宮鏡とは子宮内に内視鏡を経腟的に挿入し(子宮の出口から子宮鏡を直接挿入し子宮内腔にアプローチ)、子宮の中を観察する検査です。子宮鏡手術は、経腟的に子宮内に子宮鏡を挿入し、液体を注入しながら子宮内をモニターで観察、病変を摘出したり切開したりする手術です。当院では麻酔科医による全身麻酔の下で子宮鏡手術を行っています。

子宮鏡手術

メリットGood points

  • 経腟的な手術のため、腹部に傷をつけず、術後の痛みがほとんどなく、術中・術後の出血はほとんどありません。
  • 手術時間が短いため、当院では内膜ポリープ手術については日帰り手術が可能であり(その他でも1泊2日)、早期に社会復帰できます。

デメリットBad points

  • 腫瘍の大きさが大きい場合は手術に時間がかかることがあります。
  • 子宮穿孔、感染症、血栓症等、手術に伴う合併症のリスクがあります。
  • 手術時間が長くなると手術中に使う液体の量が多くなり、血液が薄くなる(水中毒)の合併症を来すことがあります。

当院では、低侵襲シェーバー型子宮鏡(硬性細径子宮鏡モルセレーションシステム)を導入しています

当院では数年前より硬性細径子宮鏡モルセレーションシステムを導入し、症例に合わせて使用しています。硬性細径子宮鏡モルセレーションシステムは大変細く、腟から挿入して、ポリープや子宮筋腫を削るものです。

メリットGood points

  • 従来の電気メス(ループ電極型子宮鏡システム)と比較し、合併症が少なく、手術時間を短縮できます。
  • 電気エネルギーを使用しないシェーバーを用いることにより、子宮内膜が薄くなってしまうのを防ぐことができます。また、子宮内膜への焼灼ダメージがなく、術後早期の妊娠が可能です。
  • 細径のため、手術前に子宮頸管拡張(子宮の出口を拡げる)処置を必要とせず、より低侵襲となります。
子宮鏡シェーバー
どんな患者様が向いている?
  • 不正出血や過多月経あるいは不妊症があり、超音波検査や子宮卵管造影検査等で子宮内膜ポリープや子宮筋腫等を指摘された方が対象となります。
  • 中隔子宮(子宮内部の形態異常)やアッシャーマン症候群(子宮内部の癒着)も不妊症の原因となり、子宮鏡手術の適応となります。
    どちらにしても、術前に子宮鏡検査(ファイバースコープ、外来で可能)で診断します。

卵管鏡下卵管形成術(FT)

卵管鏡下卵管形成術は卵管の閉塞(閉じている)、狭窄(狭くなっている)部位を膣から挿入したFTカテーテルのバルーンで広げてゆき卵管を開通させるものです。同時に卵管鏡で卵管内を観察します。入院期間は1泊2日で、入院当日に手術、翌日退院となります。
精子、胚の通路としての卵管機能が回復しても、受精、胚発育の場としての卵管機能が不良と考えられる所見があれば、自然妊娠を待たずに高度生殖補助医療(体外受精)をおすすめすることがあります。
また、卵管留水腫を含む病気がある場合は卵管造影や超音波検査結果をもとに、ご相談の上、手術の計画を進めます。
手術の時期・・・月経終了から排卵日までの子宮内膜の薄い期間に行います。
手術室で全身麻酔下に子宮鏡を併用し、卵管口から卵管内に確実にFTカテーテルおよび卵管鏡を挿入し、卵管形成術を行います(腹腔鏡を併用して卵管周囲の癒着の剥離や卵管采形成等も可能です)。

メリットGood points

  • 保険適用の治療
  • 卵管の再開通率は90~95%であり、妊娠率は約25~30%で体外受精の成績に匹敵
  • 上記のうち、術後1年間での妊娠が95%
  • 術後1年間は自然妊娠での治療をめざせる

デメリットBad points

  • 卵管が回復しても手術後1年で30%程度卵管の再閉塞が生じる
  • 腹腔鏡下での手術にともなう一般的な合併症として出血や感染
  • 閉塞が強く開通が困難な場合、卵管に穴があくことがある(通常は特に処置は必要なく経過観察)
どんな患者様が向いている?
  • 卵管通過障害が原因である卵管性不妊の方が対象であり、子宮に近い場所に卵管閉塞(閉じている)や狭窄(狭くなっている)ことが確認された場合に良い適応となります。
  • 01治療器具は、内視鏡(卵管鏡)を内蔵した細い管(カテーテル)です。
  • 02カテーテルを膣から子宮へと挿入し、卵管に近づけます。
  • 03カテーテルの風船(バルーン)を膨らませて、卵管の中へバルーンを進めます。
  • 04詰まっていたり、狭くなっている部分を拡げます。
  • 05最後に、通過障害が改善したことを卵管鏡で確認します。

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